米軍がイラン旅客機を撃ち落とした1988年の夏
ニューズウィーク日本版 / 2019年8月22日 15時50分
撃墜事件の数週間後、米海軍はこの出来事に関する報告書を発表。ビンセンズのウィル・ロジャーズ艦長の行動は「分別のあるものだった」と認定した。問題の航空機によりビンセンズや周辺の米艦が危険にさらされていると判断したのは無理もない、というわけだ。
政府が真実を隠蔽した?
この報告書は、「イランにも責任の一端がある」とも指摘した。米艦とイランの小型砲艦の戦闘が続く状況下で「民間の旅客機が低空を飛行することを許可した」というのが理由だ。
ロジャーズは事件の翌年までビンセンズの艦長の地位にとどまり、1990年には1987年4月~89年5月の「傑出した奉仕」を理由に表彰まで受けている。その際、旅客機撃墜への言及は全くなかった。1991年、ロジャーズは名誉除隊している。
しかし、1992年に本誌がABCテレビのニュース番組『ナイトライン』と共同で実施した調査報道により、米軍の説明とは異なる事実が見えてきた。公開された公文書、関係する艦船の映像や音声データ、そして100人以上の人たちへの聞き取り取材によれば、責任は主にロジャーズにあり、米国防総省はそれを隠蔽していたのだ。
本誌とABCの調査は、このときビンセンズがイランの領海に入り込んでいたことを突き止めた。これは明らかに国際法違反だ(イランは今年6月にアメリカの無人偵察機を撃墜したときも、その無人機がイランの領空を侵犯したと主張している)。
撃墜事件当時に米軍制服組トップの統合参謀本部議長だったウィリアム・クロウは、1992年7月の下院公聴会で隠蔽説を否定。本誌とABCを強く批判した。「ABCとニューズウィークの報道の最も非難すべき点は、ごくわずかの、しばしば誤っている情報を基に、大げさな言葉で批判を展開していることだ」
ビンセンズがイラン領海に入ったことにも問題はないと、クロウは主張した。「自衛の必要に迫られた軍用艦艇が攻撃者の国の領海に入ることは、国際法上も認められている」
1992年にこの報道が話題になったのを最後に、イラン航空655便撃墜事件は、アメリカではほとんど忘れられていた。しかし、イランの人々の間で悲劇の記憶は薄れていない。アクバリの言葉を借りれば、それは「イラン・イラク戦争の暗い時代の悲しい記憶」でもある。
テヘランの旧米大使館を囲む壁に描かれた反米プロパガンダ ERIC LAFFORGUE-GAMMA-RAPHO/GETTY IMAGES
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