日本にはびこるブラック校則、その原因と対策を考える - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2019年8月29日 16時10分
<理不尽なルールへの従属を強制する「反教育的」制度は、日本経済の停滞傾向が顕著となった今、放置しておくことはできない>
子どもの貧困への支援を行なっているNPO法人キッズドアの渡辺由美子理事長が発起人となり、評論家の荻上チキ氏、勝間和代氏などが賛同者として名前を連ねている、「ブラック校則をなくそう!」プロジェクトの活動が話題になっています。
この問題、取り組むのが遅すぎるくらいですが、今度こそ多くの世論を動かして実際の成果に結びつけていって欲しいと思います。そのためにも、あらためてこの「ブラック校則」について「何が問題か?」という評価と、「なぜ廃止できないのか?」という原因についてあらためて確認したいと思います。
まず何が問題か、ということです。確かに「地毛を黒く染めさせるのは傷害行為」ですし、「水飲み禁止は命に関わる」のは事実ですから、まさに基本的な人権という点からして廃止は待ったなしだと思います。
ですが、問題はそれだけではありません。理不尽なルールを押し付けられて、これに異議を唱えることができないという環境は、教育ではなく「反教育」、つまり中高生など若者を「大人になるように教えて育てる」という教育の本来の目的には「逆行する」環境だということです。
どういうことかと言うと、近年は18歳選挙権が実現しているわけで高校生を主権者へと教育することが課題になっています。主権者というのは、間接民主主義の制度に基づいてルールを決定する側に立つということです。ところが「ブラック校則」の適用というのは、ルールへの従属を強制するわけです。つまり主権者教育ではなく、被支配者へと子供を教育することになります。反教育的というのはそういうことです。
そこまで理念的に考えなくても、理不尽なルールを硬直的に適用する環境では、子供たちが自然に育っていくのは難しいと思います。「確かにそうかもしれないが、決まりだから」という対応を続けることで、結局は上の世代や社会への不信感を抱いて「どうせ、そんな社会だし、変わらないだろう」といった閉塞感の中で若い世代が沈滞するとしたら、これは国家百年の損失と言わなくてはなりません。
思えば、反戦運動が弾圧された60年代、個性化が押しつぶされた校内暴力や管理教育の80年代、そして学級崩壊の発生した90年代と、それぞれの世代が学校において不幸な経験に遭遇し、そして上の世代への不信を抱えたまま成人していきました。そのことは、日本の社会が健全な活力を失ってきた歴史とどうしても重なって見えるのです。経済衰退の兆候が顕著になってきた現在、これ以上の沈滞を放置する余裕はないと言うべきでしょう。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
「水分補給は適切に」 授業中“禁止”の中学校に市教委が通知
毎日新聞 / 2024年7月1日 17時7分
-
今なら言える「挑戦を」投稿で応援も アイドル歴5年、大阪の予備校講師
共同通信 / 2024年6月30日 18時2分
-
【漫画】「生まれた子どもに同じ経験をしてほしくない…」デート相手と2軒目に突入も悲しきトラウマの連鎖で大失恋「俺らも子どものころ似たようなことしてただろ…」
集英社オンライン / 2024年6月29日 16時0分
-
「授業中の水分補給禁止」学校が大炎上した必然 生徒を束縛するブラック学校へのモヤモヤの正体
東洋経済オンライン / 2024年6月22日 13時0分
-
中学部活の“ヒップホップ禁止令”が呼んだ波紋。「些細な問題すら当事者間で解決できない」社会が示すもの
日刊SPA! / 2024年6月14日 8時53分
ランキング
-
1「わが国には大きなリセットが必要」 英総選挙で労働党圧勝 スターマー首相が就任
産経ニュース / 2024年7月5日 21時30分
-
2焦点:ガザ戦後統治は誰が担うのか、イスラエルを悩ます難問
ロイター / 2024年7月5日 18時31分
-
3シンベト元諜報員が非難 イスラエルの破壊者は「ネタニヤフ首相」
AFPBB News / 2024年7月5日 20時39分
-
4EU議長国のハンガリー首相が独断で訪露 ウクライナ支援の先行き懸念
産経ニュース / 2024年7月5日 22時55分
-
5イギリス総選挙 政権交代しても、お先真っ暗な英国の未来
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月5日 16時20分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください