米労働市場は不法就労が支える
ニューズウィーク日本版 / 2019年9月12日 17時45分
今回の摘発は2006年にピークを迎えたICEの過去の大規模捜査を思い出させる。史上最大規模となった当時の摘発で、当局はスウィフト・アンド・カンパニー(現JBS)の6つの食肉加工工場に立ち入り、約1300人を拘束した。この摘発は移民コミュニティーでは負の記憶として受け継がれており、本誌が弁護士たちに取材したときも頻繁に話題に上った。
摘発された移民たちは政府の移民政策の不公平さを敏感に察知していると、マッゴーワンは言う。「会社のために長年働いてきたのに、この仕打ちか」と、移民たちは口々に訴えているという。「雇用主ではなく自分たちに矛先が向かってくる事実に、みんな気付いている」
雇用主の不正行為で被害を受けた労働者がICEの捜査に協力して証言すると、特定の条件下では合法的な在留資格を得られる可能性がある。だが、多くの労働者はそこまで政府を信用していない。事実、トランプ政権は犯罪捜査に協力した不法移民を送還しやすくするために規則を変えたばかりだ。
「犯罪捜査で当局に協力すると決めた個人は、法律により保護されることになっている。しかし、不法滞在者の場合は保護されない」。マッキニーはそこにトランプ政権の影響を感じ取っている。現に、マッキニーがHSIの捜査に関して協力を募っても志願者は1人しかいなかった。「名乗り出たら身柄を拘束されると恐れているからだ」
ミシシッピ州での摘発の後、人々の間には動揺が広がり、ただでさえ緊迫した状況が一段と不安定になっている。「この先も摘発が続くのではないかと、みんな不安がっている」と、マッゴーワンは言う。
もちろん不安を抱えているのは、もっぱら身分の不安定な現場の労働者。雇用主は(制裁金さえ払えば)平然とビジネスを続けていられる。
<本誌2019年9月17日号掲載>
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※9月17日号(9月10日発売)は、「顔認証の最前線」特集。生活を安全で便利にする新ツールか、独裁政権の道具か――。日常生活からビジネス、安全保障まで、日本人が知らない顔認証技術のメリットとリスクを徹底レポート。顔認証の最先端を行く中国の語られざる側面も明かす。
アッシャー・ストックラー
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