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「国民であっても日本人ではない」という帰化人のアイデンティティーの葛藤

ニューズウィーク日本版 / 2019年9月12日 18時30分

しかし、予想に反して認められる場面もある。例えば、娘が宿題を解いている時に、日本語の言葉の意味や使い方を聞いてくれることや、自分が勤めている大学で日本人しか担当させない授業を任せてくれることがある。もちろん日本国籍であっても、本物の日本人ではないことを理由に、対象外とされることもある。



一方、日本国籍取得後も「アラブ系日本人」「中国系日本人」「韓国系日本人」に対して、一般の日本人が不安と困惑を隠せないのが現実である。日本とは違う民族的ルーツをもつ新しい日本人である「帰化人」を、日本社会が受け入れる心構えがないなか、今後の日本の移民政策、そして外国人受け入れ施策の行方はどうなるのだろうか。また、世界の多くの国では生まれた地の国籍を与える出生地主義であるが、日本の場合は血統主義である。日本も生地主義にすべきだとの声も上がっている。つまり、国籍は天から与えられるものではなく、人間が付与するものだという認識へのシフトが必要だ。

相反する光と影の間では、われわれが目をそらし、「一つの世界」「国境や差別がない世界」「文化・文明が融合する世界」のような大げさな言葉やスローガンでごまかそうとしてきた事実が見える。大半の人が一元的な地理的視点でしか、他者を見ることができないという事実だ!

われわれは他者をどのように見て、他者は私たちにどう映るのか? 他者を理解するのが難しい時には、考えるに値する問いだ。

私がここで言いたいのは、決して、日本社会が人種差別的または他者を排除する社会だということではない。しかし分かったことは、異国地で暮らす年数の長さだけで、その地の国民の1人にはなれないだけでなく、生まれ育った国でも自分をよそ者にしてしまうのである。

移民の結果である帰化人はどこで生活しようが、しょせん移民なのだ。私はその現実をしっかり理解し、人生を送っていくしかない。

【執筆者】アルモーメン・アブドーラ
エジプト・カイロ生まれ。東海大学・国際教育センター教授。日本研究家。2001年、学習院大学文学部日本語日本文学科卒業。同大学大学院人文科学研究科で、日本語とアラビア語の対照言語学を研究、日本語日本文学博士号を取得。02~03年に「NHK アラビア語ラジオ講座」にアシスタント講師として、03~08年に「NHKテレビでアラビア語」に講師としてレギュラー出演していた。現在はNHK・BS放送アルジャジーラニュースの放送通訳のほか、天皇・皇后両陛下やアラブ諸国首脳、パレスチナ自治政府アッバス議長などの通訳を務める。元サウジアラビア王国大使館文化部スーパーバイザー。近著に「地図が読めないアラブ人、道を聞けない日本人」 (小学館)、「日本語とアラビア語の慣用的表現の対照研究: 比喩的思考と意味理解を中心に」(国書刊行会」などがある。


アルモーメン・アブドーラ(東海大学・大学院文学研究科教授、国際教育センター国際教育部門教授)


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