文在寅が「タマネギ男」の検察改革に固執する理由
ニューズウィーク日本版 / 2019年9月17日 18時30分
数々の疑惑があっても文が曺を任命したのは、彼の実務能力を信頼しているから、という見方が有力だ。
文が曺に関心を持ち始めたのは、2010年に曺が執筆した『進歩執権プラン』という本に接してからだ。当時は盧政権から保守の李明博(イ・ミョンバク)政権への移行期で、かつ盧の自殺というショッキングな事件の後であり、文は政界再チャレンジへの意欲を失っていた。そんなときに曺のこの本を読んで政治への意欲が再び湧き出た文は、わざわざ自筆の手紙を書いて感謝を述べたほどだ。
その後、2012年の大統領選で惜敗した文は「新政治民主連合」という政党の代表になる。2015年に党内が派閥争いで混乱すると、文は曺を党内改革のために呼ぶ。そのとき曺は党規約の改正案などを矢継ぎ早に打ち出し、あっという間に混乱を収拾してしまった。その手腕に、文は「政権奪取時には必ず曺を呼ぶ」と決心したという。
2017年に大統領に当選した後、文はすぐ曺を大統領府民情首席秘書官に指名した。文にとって絶対に手放したくない、優れた実務能力を持つ最側近なのだ。だが「側近」への行き過ぎた信頼が不正へとつながりやすいのは、自ら辞任へと追いやった朴槿恵(パク・クネ)前大統領の「崔順実(チェ・スンシル)」ゲートから容易に想像がつく。
法相就任後、曺はさっそく検察改革を進めるメンバー選定や委員会発足を指示した。任命を強行した文も新法相を強力に後押しするだろう。しかし、彼は盧政権時代にこんなことを言っている。「権力に酔えば、初心を忘れるのが人間の常だ」
文には、純粋なままの初心が残っているだろうか。
<本誌2019年9月24日号掲載>
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※9月24日号(9月18日発売)は、「日本と韓国:悪いのはどちらか」特集。終わりなき争いを続ける日本と韓国――。コロンビア大学のキャロル・グラック教授(歴史学)が過去を政治の道具にする「記憶の政治」の愚を論じ、日本で生まれ育った元「朝鮮」籍の映画監督、ヤン ヨンヒは「私にとって韓国は長年『最も遠い国』だった」と題するルポを寄稿。泥沼の関係に陥った本当の原因とその「出口」を考える特集です。
浅川新介(ジャーナリスト)
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