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小学校の教育現場で広がる「スタンダード」の危うさ - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2019年10月1日 19時30分



日本側では、結局のところ社会の改革は既得権益層の抵抗にあって進まず、結果的にその後の30年で日本経済は大きく傷んでしまうこととなりました。その一方で、アメリカではクリントン政権時代に「K(キンダーガーテン、つまり幼稚園の年長)から12(高校の最高学年)」に至る13年間の主要科目について「全国標準の到達度目標」が設定され、まがりなりにも教育改革が進んだのです。

この改革は100%成功したとは言えず、現在でもアメリカでは低い教育水準に苦しむ貧困層は少なくありません。ですが、結果的にこの改革が行われたことで上位100校くらいまでの大学における学力の底上げには成功したのです。これが90年代のIT革命、2010年代のAI革命の基盤になっています。

日本としては、相手が日本の提案を活用して経済的な躍進を遂げた一方で、自分たちの改革には失敗したわけで、全体のストーリーは極めて「ほろ苦い」ものがあります。それでも文科省は、今般の中教審答申にもあるように「義務教育の使命の明確化」のなかで「義務教育の内容・水準は、ナショナル・スタンダードとして、全国的に一定基準以上のものを定め、その実現が保障されることが必要」ということを改めて確認しようとしているのです。これは現在進行中の教育改革の中核を成す考え方と言っても良いと思います。

現在、全国の小学校で進んでいる規範や方法論の「スタンダード」というのはあくまで、この到達度の「ナショナル・スタンダード」を実現するための方法論で、しかも人材確保の問題や、学校と保護者の関係再構築の途上というなかでの「緊急避難的」なものだと思います。

規範はあくまで方法論であり、目的は到達度ということ――この順序が狂っては国家的な損失を生むのではないでしょうか。その意味で、現在全国の小学校で進んでいる規範のパッケージを「スタンダード」と呼ぶ習慣については、やはり名称の再考を望みます。




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