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保育無償化では進まない保育士の待遇改善

ニューズウィーク日本版 / 2019年10月2日 16時0分

<保育士の年収は労働者平均の7割でしかなく、とりわけ都市部での冷遇が際立っている>

幼児教育・保育の無償化政策が10月1日から施行された。幼稚園・保育所・認定こども園等の3~5歳児、および低所得世帯の0~2歳児の費用が無償になる。経済的負担が軽減されると歓迎する保護者が多い。

しかし受け皿の量は変わらない。保育所不足が言われて久しいが、今よりも入園競争が激化し、運良く入れた世帯と入れなかった世帯の格差が大きくなる。「人手も足りていないなかで無償化が決まり、定員を増やさなければ待機児童があふれてしまう」。これは現役保育士の声だ(「幼保無償化、歓迎かと思いきや...多い反対意見、背景は」朝日新聞Web版、2019年9月29日)。

保育所の定員を増やせない最大の理由は、保育士不足だ。待遇が悪く、なり手が集まらないことはよく知られている。月収の12倍に年間賞与額を足して保育士の年収を出すと358万円となる(厚労省『賃金構造基本統計』2018年)。全労働者(497万円)の7割でしかない。公立を除いたらもっと低いはずだ。

労働者の給与水準が高い都市部では、保育士の冷遇ぶりはより際立つ。保育士の年収を全労働者の年収で割った相対倍率を都道府県別に出し,高い順に並べると<表1>のようになる。



保育士の年収の相対水準には地域差がある。青森県や宮崎県では、全労働者とほぼ等しい。労働者全般の給与が低いためだ。その一方で、全労働者の7割にも満たない県もある。東京都、神奈川県、愛知県、大阪府といった都市部が多い。保育士が魅力的な仕事とは見られず、現役の保育士は不満を抱いている。



保育士の待遇の良し悪しは、保育士の職場定着とも相関している。保育士の平均勤続年数を見ると、保育士の年収の相対水準が最も高い青森県は12.4年だが、最も低い大阪府は5.0年でしかない。<図2>は、47都道府県のデータによる相関図だ。



横軸は保育士の待遇、縦軸は職場定着の指標だが、両者の間にはプラスの相関関係が見受けられる。頷ける結果だ。

保育の無償化の恩恵は、少ない枠に入れた世帯にしか及ばない。これに対して、費用負担は求めるものの受け入れ枠を増やすことは、夫婦共稼ぎの世帯を増やし、幅広い層にベネフィットがもたらされる。無償にしても入れなければどうしようもない。増税で得られた財源は、保育士の待遇改善に充てるべきだったのではないか。東京都内23区の統計で見ると、子育て期の既婚女性のフルタイム就業率と出生率はプラスの相関関係にある。夫婦共稼ぎの効果はあるようだ。

保育の無償化は「富裕層の優遇」という声もある。入園選考は夫婦とも正社員の世帯が有利だが、首尾よくわが子を入れたら費用はタダ。それで余裕ができ、もっと子どもを持つことも考えられるようになる。こういう構図が強まるかもしれない。子を持てるかどうかが、経済力に規定されるようになる。

こうした「意図せざる結果」、政策の逆機能が生じないとも限らない。状況を評価し、政策の方向を見直す柔軟さが常に求められる。

<資料:厚労省『賃金構造基本統計』2018年>








舞田敏彦(教育社会学者)

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