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「男性はカネがなければ結婚できない」日本の時代錯誤のジェンダー観で少子化はさらに進む

ニューズウィーク日本版 / 2023年9月6日 11時0分

既婚者と未婚者の収入差はどの国でもあるが…… marchmeena29/iStock.

<欧米・韓国など主要7カ国で比較すると、日本は既婚者と未婚者の収入差が最も大きい>

今年の上半期の出生数は37万1052人、年間だと75万人を割るのは確実だ。ここ数年、出生数は毎年2~3万人減っており、2030年には50万人を割ってしまうのではないかと言われている。少子化の勢いはすさまじい。

あまり知られていないが、出産年齢の既婚女性あたりの出生数は変わっていない。少子化には、若者の未婚化傾向が寄与している。昨今の経済事情を考えると、若者が結婚に踏み切りにくくなっていることは容易に理解できる。

結婚をするには、ある程度の経済力を持っていることが求められる。とくに男性はそうだ。その度合いは、未婚男性と既婚男性の収入の差(ズレ)を見てみると分かる。差があるのはどの国でも同じだが、主要先進国と比べて日本はどうか。ISSP(国際社会調査プログラム)が2019年に実施した調査データをもとに、日本の男性の未婚男性と既婚男性の年収を対比すると<表1>のようになる。

サンプルがやや少ないものの、2つのグループでは年収の分布が違っているのが分かる。年収300万円未満の割合は未婚者では51%だが、既婚者では14%。対して年収600万以上は未婚者で7%であるのに対し、既婚者では40%もいる。大きな差だ。

未婚者と既婚者の年収分布のズレがどれほど大きいかは、右欄の累積相対度数をグラフにすることで可視化される。横軸に未婚者、縦軸に既婚者をとった座標上に、14の階層のドットを配置し線でつないだものだ(ローレンツ曲線)。グラフの提示は省くが、曲線の底は深い。

これをもとにジニ係数を算出すると、0.553にもなる(計算の方法については、前回の記事「日本の労働者の収入格差は、今やアメリカよりも大きい」を参照)。偏りが大きいとされる0.4を超えており、未婚男性と既婚男性の年収の違いは相当大きい、ということになる。男性にあっては、結婚に際して経済力がモノをいう度合いが高い、ということだ。

同じ方法により、このジニ係数を主要国について試算してみた。カネがない男性はどれほど結婚しにくいかを測る尺度で、「結婚ジニ係数」と呼ぶことにする。<図1>は、7つの国の数値を棒グラフにしたものだ。

結婚ジニ係数は、比較対象の7つの国では日本が最も高い。カネがない男性は結婚できない度合いが最も大きい。男性が一家を養うべき、というジェンダー観が強いためだろう。女性の側は、結婚すると家事や育児をほぼ一手で担うことになり、収入は大きく目減りする。よって、結婚相手の男性に高い収入を求めざるを得ない。だがこのご時世、そういう男性は少ない。

男女平等が進んでいるスウェーデンでは、結婚ジニ係数は小さい。男性の稼ぎのみに依存するのではなく、夫婦二馬力で生計を立てていく展望が持てるためだろう。ちなみに7つの国の結婚ジニ係数は、2019年頃の合計特殊出生率とマイナスの相関関係にある。

未婚化・少子化の進行は、時代錯誤のジェンダー観が生きながらえていることにもよる。「男は仕事」といっても、男性の腕一本で一家を養える時代ではないし、「女は家庭」という考え方は、結婚による損失(逸失所得)を女性に強く意識させる。

令和の時代の若い男女が、結婚をためらう所以だ。

<資料:「ISSP 2018 - Religion IV」、
    「ISSP 2019 - Social Inequality V」>

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舞田敏彦(教育社会学者)

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