プーチンの最強兵器「プロパガンダ」が機能不全に...ちぐはぐな報道、ロシアではびこる原因とは
ニューズウィーク日本版 / 2023年9月7日 12時30分
ランド研究所のポールは、「ロシア政府のさまざまな部門が言いたいことを理解するのに時間がかかる」こともあると指摘する。「この種の矛盾は、プロパガンダ機関のさまざまな部門が広めたいと考える情報や現時点での解釈を、部分的に切り取っているだけの場合もある」
例えばロシア国営通信社RIAノーボスチは今年3月、戦場で負傷し、プーチンが約束した補償金を受け取っていない兵士たちの不満を記事にした。「どこかの組織の誰かが政府からメッセージを受け取っておらず、おそらく誰かが懲罰を受けただろう」と、ポールは言う。
報道官のペスコフは状況に合わせてストーリーを変えるやり手の外交官だが、プリゴジンの乱の直後、当初はロシア政府は「プリゴジンの居場所については何も知らないし、興味もない」と主張した。だが数日後、西側メディアがこの件を取り上げると、プーチンが反乱直後にプリゴジンらと会っていたことを認めた。ロシアの基準でも衝撃的なレベルの手のひら返しだ。
さらにペスコフは6月26日夕方のプーチンの国民に向けた演説について、「真に重要なものだ」と記者団に語ったと、インタファクス通信が報道した。その後、主要報道機関がこぞってこの演説を大げさに報じると、ペスコフはこの発言を否定した。実際、この短い演説は国民に不評で、当局の厳重な監視下にあるはずのロシアのソーシャルメディアでも、政府寄りのメディアやプーチン自身を酷評する声が上がった。
ポールによれば、ロシアのプロパガンダがうまくいっていない理由の1つは「アップデートの失敗」だ。プーチンがクリミア半島を不法に併合した14年には「実にうまく」機能したと、ポールは言う。「おそらく同様のアプローチで同様の成果と成功が得られると期待したのだろう」
クリミア併合は人的犠牲が比較的少なく、国内で支持されていた。だが、今回のウクライナ侵攻とロシア側の苦戦ぶりを国民に売り込むのは、それよりずっと難しい。
コロンビア大学ハリマン研究所のアントン・シリコフによれば、政府のプロパガンダ機関は22年9月、プーチンの「部分的」動員令は軍隊経験のあるごく一部のロシア人に影響するだけだとして国民を説得しようとしたが、この試みは失敗に終わった。大量の男性が徴兵を逃れようと近隣諸国に脱出したのだ。
シリコフは、22年9月のドネツク、ルハンスク(ルガンスク)、ヘルソン、ザポリッジャの4州併合をロシア国民は信じていないとも指摘する。「これらの併合・占領された地域はロシア領だと政府は主張してきたが、大半のロシア人はそれを完全には受け入れていないと思う。当局のプロパガンダはこれらの地域が今や『拡大ロシア』だと国民に信じ込ませることにあまり成功していないようだ」
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