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なぜイギリスは良くてフランスはダメなのか? 大地震でもモロッコが海外の救助隊を拒む理由

ニューズウィーク日本版 / 2023年9月15日 14時40分

今年2月に大地震に見舞われた後、トルコはモロッコと対照的に数多くの救助隊を受け入れた。しかし、そのうちのドイツとオーストリアの救助隊が「現地の治安情勢の悪化」を理由に活動を停止したことで、トルコがもともと抱えていた問題が表面化した。

トルコでは数十万人規模で受け入れているシリア系難民をめぐり、もともと国内で不満が募り、嫌がらせなども増えていたが、大地震後にこれがエスカレートして難民への襲撃や暴行が相次いでいたのだ。

これに代表されるように、国内の問題を外国の救助隊に「騒ぎ立てられる」ことへの警戒は多くの国が抱えるものだ。

モロッコは形式的には立憲君主制だが、実質的には王族や軍隊が大きな権力を握る国だ。

そのモロッコでは近年、格差や政府の腐敗などへの不満から大規模な抗議デモが頻繁に発生している。2016年10月には、北部アルホセイマで魚の行商人が警察官に殺害されたことをきっかけに数万人規模のデモに発展した。

さらにコロナ禍やウクライナ戦争は8%前後のインフレを招き、今年6月には最大都市カサブランカで生活苦を理由とする大規模なデモも発生している。

そのモロッコでは大地震への対応への不満が高まっている。

こうしてみた時、海外の救助隊をできるだけ絞り込もうとする一因に、モロッコ政府が国内の暗部に光が当たるのを恐れていることがあるとみても無理はない。

西サハラをめぐる温度差

だとすると、最後の疑問としてあるのは「なぜ4カ国だけ救助活動は認められたか」である。

イギリス、スペイン、UAE、カタールには一つの共通項がある。国際的に評判の悪い、しかし無視されやすい西サハラ問題でモロッコの立場に理解を示していることだ。

モロッコ南部にある西サハラでは現地に多いサフラウィ人が1976年にサハラ・アラブ民主共和国の独立を宣言したが、モロッコが歴史的領有権を主張して全土を実効支配し、サフラウィ人を「テロリスト」として弾圧してきた。

これに対して、周辺のアフリカ諸国はサハラ・アラブ民主共和国を国家として承認しているが、日本を含むほとんどの先進国はモロッコとの関係を優先させ、その占領政策にあえて触れないようにしてきた。

しかし、7月に(アメリカの同盟国だが国際的に評判の悪い占領政策を行なっているという点では同じ立場の)イスラエルが西サハラをモロッコの領土と認めたことで、他の先進国にもこれに追随する動きが一部にあり、とりわけモロッコ沿岸の漁業権をめぐって深い関係をもつスペインとともに、イギリスはモロッコが最も期待をかける国とみられる。

今年4月、イギリスの権威ある新聞The Timesは「モロッコの主権を認めるべき」という論考を堂々と掲載している。

逆にこの点でフランスは態度を鮮明にしていない。

イギリスはフランスとともにアフリカで大きな影響力を持つライバルで、フランスの凋落はイギリスのアドバンテージになる。

昨年、モロッコ国王モハメド6世は「サハラ問題はモロッコが世界をみるときのレンズである」と述べている。この観点からみれば、大地震でどの国の救助隊を受け入れるかにも西サハラの影があったとみられる。

自然災害には人間の世の中の問題を浮き彫りにする一面がある。モロッコ大地震もその例外ではないと言えるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら。

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