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「特急オホーツク」「寝台特急北斗星」がタイを走る...地元でも愛される、中古車両の幸せな「第2の人生」を追う

ニューズウィーク日本版 / 2023年9月17日 9時52分

輸入にあたって日本語の資料しか添えられておらず、整備に苦労していたからだ。運転席の表示も耐雪、空転、停止と表示も日本語のままだった。

中心となったのは、木村のほか、長崎の吉村元志、北海道の小林涼太郎らだ。

「長く使ってもらえるように協力したい」と話す日本側に対して、AS社のポンサック・スティーブンは「会社じゃなく、ひとりひとりの有志としての支援がほんとうにうれしい」と応じた。

自分の祖父が日本で運転していた機関車だといって、わざわざ見にきた日本人もいた。「大事にされていたんだなあ、と愛着がわきました」。スティーブンは笑顔をみせた。

この会社がある辺りは戦中、日本軍が多くの施設を展開していた。「戦争で亡くなった人の幽霊が出るってうわさもあるのですよ」。そう付け加えた。

負の歴史を抱える地で、温かな交流が生まれている。吉村は日本から持参した北斗星のプレートを手渡した。

その後も、日本の技術者による相談や指導をこつこつと続けている。吉村は言う。

「中古車両が活躍できるかどうかは、車両の善し悪しだけでなく、いかにメンテナンスするかが大きい。技術者の交流などソフト面の支援があってこそ、より長く使えます」

中古車両が心を通わせるきっかけになるとしたら、第2の人生、これほどの輝きはない。

ミャンマーに協力が戻る日

ミャンマーでもヤンゴンの環状線をはじめ、日本の中古車両があちこちで活躍する。とはいえ、民主化指導者アウン・サン・スーチーが「中古ばかりではいやだ」と日本の援助関係者に話したことがあり、日本政府は新車も投入する方針で計画を進めていた。

ただ、21年2月に国軍によるクーデターが起き、23年5月現在も国軍の統治下にある。鉄路の爆破も起きている。

民主主義に銃弾で背を向けた国に援助ができるはずがない。日本政府は鉄道を含めて新たな協力を止めた。ヤンゴン近郊で見かけたキハ11を思い出す。

行き先のプレートが「高山」という日本語表記のままで走っていた。家族3人で乗り鉄していた英語講師の男性は、「10歳の息子が列車に乗ると喜ぶんだ。いつか環状線を家族で1周したい」と話していた。

ミャンマーの政治が1日も早く人々の手に戻り、日本の鉄道専門家が再び現場に赴く日を心待ちにしている。

𠮷岡桂子(Keiko Yoshioka)
1964年岡山県生まれ。岡山大学法学部卒業後、山陽放送アナウンサーを経て朝日新聞記者。北京・上海特派員として約8年間、中国に駐在。2020年9月まで3年半、バンコクを拠点に20カ国以上を訪ねて中国の影響力を取材した。新刊『鉄道と愛国 中国・アジア3万キロを列車で旅して考えた』(岩波書店)をはじめ、著書に『人民元の興亡 毛沢東・鄧小平・習近平が見た夢』(小学館)、『問答有用 中国改革派19人に聞く』(岩波書店)、『愛国経済 中国の全球化』など。ユーラシアから中国を見ようと、23年秋からブダペスト在住。

 『鉄道と愛国 中国・アジア3万キロを列車で旅して考えた』
  𠮷岡桂子[著]
  岩波書店[刊]

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タイ国鉄 キハ183系とAS社DD51-1137が本線上で奇跡の再会。かつての北海道を彷彿とさせる光景に感動/鉄道走行動画チャンネル

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