ウクライナとヨーロッパの衰退──理念と現実の間で
ニューズウィーク日本版 / 2023年9月20日 18時10分
イタリアでポピュリスト政権が誕生したことは記憶に新しく、EUにおいて基盤となる民主主義は大きく後退してきている。幸いなことにイタリアではプーチンに不信感をいだく国民が多いが、その一方でロシアのプロパガンダは広く浸透し、ゼレンスキーへの信頼度も低くなってきている。
ポーランドの状況
ポーランドはロシアのウクライナ侵攻において、100万人を超えるウクライナ難民の受け入れ、ウクライナへの軍事支援などの輸送路として、きわめて重要な役割を果たしている。当然、ウクライナを支援するグローバルノースではポーランドを肯定的に報道しているが、同国ではポピュリスト政権が与党となっており、権威主義化が進んでいる。最新の民主主義の指標V-Demのレポートではこの10年で権威主義化が進んだ国のひとつにあげられているほどだ。
EU諸国との関係もよいとは言えない。たとえばポーランド与党は国民の反ドイツ感情を煽ることに腐心している。党首は「ドイツとロシアのヨーロッパ支配計画」を受け入れないと語り、外相は「EUにはドイツの自制心が必要だ」と発言している。与党は来年の選挙に備えて反ドイツの感情を煽るため、ドイツ首相からの電話での提案を拒否したフェイク動画を公開したほどだ。
戦争の長期化はヨーロッパの亀裂を広げ、消耗させる
筆者はウクライナとロシアの戦争は早期に解決した方がよいと思うが、ロシアに有利な条件での解決はすべきではないと考えている。同様な立場を取る人は多いと思うが、ここにはひとつ大きな問題がある。
時間はウクライナおよび支援国、特にヨーロッパにマイナスに働く。前掲のように世界が直面する気候変動、食糧問題、エネルギー問題および移民問題はヨーロッパへの負担を大きくするし、負担をしなければ理念の放棄になる。また、負担をしたとしてもそれを配分することはEU内の不協和音を拡大する。配分しなければイタリアなど特定の国だけが犠牲を強いられることになり、これもまた亀裂を広げる。
現在の移民協定案が民主主義的理念とそぐわない側面があることが象徴しているように、現実との妥協は民主主義を信奉する人々とそうではない人々の双方に不満をもたらし、後者の増加はポピュリストの台頭を許すことになる。
その矛盾を利用するのがロシアの情報戦、認知戦だ。主として西側以外あるいはグローバルサウスの国々で影響力を広げている。日本にいると海外の情報は欧米特にアメリカのメディアがテーマと視点を設定したものがほとんどだ。日本で言う国際世論とはアメリカおよび一部のヨーロッパメディアに形作られるといってもよいだろう。世界の人口の半数を占めるグローバルサウスの国々の世論は日本人には届きにくい。
この記事に関連するニュース
-
台頭する極右と高まる移民・難民排斥の機運、欧州はどこに向かうのか 専門家の見方は~青山学院大の羽場久美子名誉教授
47NEWS / 2024年7月4日 11時0分
-
日本車メーカーの「ドル箱市場」を中国EVが侵食…「世界一の自動車大国」の座を奪われた日本がやるべきこと
プレジデントオンライン / 2024年7月4日 7時15分
-
反移民感情と民主主義のバランスが崩壊したフランスの教訓...人口移動は今後「さらに加速する」
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月2日 17時37分
-
右傾化するヨーロッパと左傾化するイギリス
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月22日 16時0分
-
欧州議会選挙で極右政党がかつてない躍進──EUが恐れる3つの悪影響
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月14日 10時40分
ランキング
-
1新興国結束で米に対抗=ベラルーシ加盟、次回中国―上海協力機構
時事通信 / 2024年7月4日 20時6分
-
2討論会の失態「気の毒に思う」 バイデン氏の生まれ故郷の町
AFPBB News / 2024年7月4日 19時59分
-
3ウクライナ軍、ドネツク州要衝の一部地区から撤退 ロシア軍侵入
ロイター / 2024年7月4日 19時8分
-
4英総選挙の開票始まる、出口調査は労働党大勝 14年ぶり政権交代でスターマー首相誕生へ
産経ニュース / 2024年7月5日 7時2分
-
5日本ウイグル協会「デモ参加者1万人が一晩で消えた」 ウルムチ暴動15年、中国を批判
産経ニュース / 2024年7月4日 23時21分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)