かつて「民主主義の世界的リーダー」ではなかった...「反知性主義」を論じた歴史家ホフスタッターが描いた建国期アメリカのデモクラシーとは
ニューズウィーク日本版 / 2023年10月4日 11時10分
かくも長い紆余曲折を経て、野党の存在を承認する政治文化がアメリカの地に根づいていったのである。アメリカにおいても、デモクラシーとは教義などではなく、絶え間ない実践の産物に他ならなかった。
ホフスタッターとその魅力
ホフスタッターが描き出したのは、建国期アメリカの在野政党が、陰謀や政府転覆に関与する反体制勢力としてではなく、体制内部の合法的な批判者として正統性を獲得していく史的過程であった。
単純な選挙権拡大の過程にではなく、「意見の複数性をいかに制度的に担保するか」という点にデモクラシー確立の要件を見いだした著者の鋭い視角には、米国社会のコンフォミティ(同調圧力)に人一倍敏感であった歴史家ゆえの問題意識を読み取れよう。
ナショナル・デモクラシーという前提や、人種・ジェンダーの観点の欠落など、現在の視点から見ればその陥穽を批判することは容易いが、今なお繰り返し読まれるべきホフスタッター晩年の重要な著作である。
本書に翻訳がないのは誠に残念なことである。
遠藤寛文(Endo Hirobumi)
1986年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得満期退学。日本学術振興会特別研究員、フルブライト奨学生、神奈川大学外国語学部特任助教を経て現職。専門はアメリカ政治史。主な業績に『改革が作ったアメリカ──初期アメリカ研究の展開』(共著、小鳥遊書房、2023年)、「強制徴募とアングロフォビア――モンロー-ピンクニー条約(1806年)批准拒否騒動」(『アメリカ太平洋研究』21号、2021年)などがある。「北米辺境から見る19世紀初頭アメリカの社会不安と自意識」にて、サントリー文化財団2019年度「若手研究者のためのチャレンジ研究助成」に採択。
『政党制の理念――アメリカ合衆国における合法的反対勢力の台頭(1780-1840)』
(The Idea of a Party System: The Rise of Legitimate Opposition in the United States, 1780-1840)
リチャード・ホフスタッター/Richard Hofstadter[著]
University of California Press[刊]
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
この記事に関連するニュース
ランキング
-
1新興国結束で米に対抗=ベラルーシ加盟、次回中国―上海協力機構
時事通信 / 2024年7月4日 20時6分
-
2ウクライナ軍、ドネツク州要衝の一部地区から撤退 ロシア軍侵入
ロイター / 2024年7月4日 19時8分
-
3「敵前逃亡」で兵士25人に死刑 コンゴ軍事法廷
AFPBB News / 2024年7月4日 13時59分
-
4日本ウイグル協会「デモ参加者1万人が一晩で消えた」 ウルムチ暴動15年、中国を批判
産経ニュース / 2024年7月4日 23時21分
-
5フィリピン軍「自衛のため反撃の用意」 中国側の妨害に対抗 南シナ海情勢
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年7月4日 20時6分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください