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日本の他殺被害者のうち0歳児が断トツで多い理由

ニューズウィーク日本版 / 2023年9月27日 11時15分

乳児殺害の加害者は、妊娠を届け出ず、行政や医療との接点を持たないで出産した女性が多い(画像はイメージ写真) Daniela Jovanovska-Hristovska/iStock.

<背景にある「乳幼児の世話は家族がするもの」という意識と制度は、そろそろ限界にきている>

日本の教育の特徴は「私」の比重が高いことだ。幼児教育と高等教育の段階では私立校(園)が多くを占め、教育費が高騰する原因にもなっている。現在では、幼稚園や保育所の費用は無償で(3~5歳)、大学等の学費も所得に応じて減免される。「教育費が高すぎる」という声を受けてのことだ。

制度面だけでなく、保育・教育に対する考え方にも「私」が前面に出ている。それは、「就学前の乳幼児の世話は、まずは誰がすべきか」という問いへの回答を国ごとに比べると分かる。<図1>は、日本を含む主要7カ国の回答データだ。「家族」という回答と、「政府」という回答のパーセンテージをグラフにしている。

日本は「家族」という回答が77%を占めるが、スウェーデンは「政府」という回答が83%となっている。前者は「私」型、後者は「公」型の典型で、他の国はこの両端の間にある。フランスは家族でも政府でもない「民間業者」という回答が多い。おそらくベビーシッターのことだろう。

あくまで国民の意識の比較だが、現実の制度もこれに近いと言っていい。日本は家族の役割を重視する国だが、昔と違って家族の小規模化が進み、働く女性が増え、かつ職住分離の雇用労働が多くなっている現在では、当事者の負担は大きくなっている。

社会変化にもかかわらず、制度や国民の意識がそれに追いついていない。保育を家庭という私空間に委ねる(密封する)やり方は、そろそろ限界にきている。児童相談所が対応した児童虐待の相談件数もうなぎ上りで、2022年度では22万件近くに達している。「親密性の病理」という言葉があるが、家族という(閉じた)私空間で四六時中親子が接していては、育児ストレスも増すというものだ。

虐待が高じ、幼い命が奪われるケースもある。厚労省の内部統計に当たってみると、2013~22年の10年間で、「他殺」という死因で亡くなった6歳未満の乳幼児は190人。多くが家族による虐待死だろう。各年齢の他殺被害者数をつないだグラフにすると、驚くべき事実が出てくる<図2>。

大人も含めた他殺死亡者数だが、0歳の乳児がダントツで多い。望まない妊娠・出産による遺棄や虐待死と推測される。加害者には、妊娠を届け出ず、行政や医療との接点を持たないで出産した女性が多いという(厚労省)。若年出産や貧困という要因が加わると、孤立(抱え込み)の闇はさらに深くなる。相談機関の情報をSNS等で提供する、妊娠の確定診断の費用を補助するといった支援が求められる。

児童虐待の防止には人員が必要となるが、現状では不足している。世の中には「公」と「私」の仕事があり、成熟社会になるにつれ前者の比重が増してくる。日本の労働者の公務員比率は10%ほどだが、北欧の諸国では半分近くにもなっている(ISSP 2019 - Social Inequality V))。ロスジェネの活用等も視野に入れ,公務員を増やすことも検討すべきだろう。

<資料:「ISSP 2012 - Family and Changing Gender Roles IV」、
    厚労省『人口動態統計』>

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舞田敏彦(教育社会学者)

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