元戦闘員が「裏切り者」とみなすワグネル元司令官をプーチンはどう使うのか
ニューズウィーク日本版 / 2023年10月2日 15時31分
<プーチンの指示で創設する志願兵舞台にワグネルの元戦闘員を合流させたいトロシェフだが......>
ロシア当局は9月29日、ウラジーミル・プーチン大統領がワグネルの元司令官アンドレイ・トロシェフと面会したとする動画を公表した。プーチンは、トロシェフはウクライナでの戦闘任務に当たる志願兵部隊を創設するとともに、その責任者になると語った。
だがイギリス国防省によれば、ワグネルの元戦闘員たちはトロシェフを「裏切り者」と考えているという。
創設者のエフゲニー・プリゴジンが8月に飛行機事故で死亡して以降、ワグネルの先行きには暗雲が立ちこめている。プリゴジンはその2カ月前の6月24日にロシア南部の軍施設を占拠し、モスクワに向けて進軍するいわゆる「プリゴジンの乱」を起こした。
ワグネルはロシアによるウクライナ東部ドネツク州バフムトの攻略で重要な役割を果たした。また、アフリカ各地でも活動しており、それによりロシア政府は貴重な天然資源への利権を手にしている。
ワグネルの関係筋によれば、トロシェフはプリゴジンの乱の後にワグネルを離れ、ロシア国防省系の民間軍事会社で働いていたという。
トロシェフの「人脈」に期待
イギリス国防省は9月30日、トロシェフがワグネルの元戦闘員たちに対し、国防省と契約するよう説得する役割を担っている可能性が高いとの見方を明らかにした。だがワグネル戦闘員をロシア国防省の指揮下に入れようとする圧力は、プリゴジンの乱の原因の1つでもあった。
「多くのワグネルの兵士たちは彼(トロシェフ)のことを裏切り者だと思っている可能性が高い」と、英国防省は指摘する。
プーチンがトロシェフを登用したことからは、ロシア政府が志願兵部隊や民間軍事会社を今後も利用し続ける意向を持っており、「ワグネルの未来に関する計画を立てて」いることがうかがえるという。
また英国防省は28日、ワグネルの元戦闘員数百人は引っ張りだこで、他の民間軍事会社もしくはロシア軍と共に戦うためにすでにウクライナに戻っているとの見方を示した。
一方、アメリカの戦争研究所(ISW)は29日、トロシェフと面会した際にプーチンが、トロシェフがかつての「同志」たちとの関係を維持していると述べたことについて、ロシア国防省が「トロシェフのワグネルに対するコネを利用したいと考えている」ことの証拠だとの見方を示した。
ISWは、ワグネルの元戦闘員がロシア国内の治安部隊でありプーチンの私兵とも呼ばれる国家親衛隊とともに作戦に従事しているとの報告が増えているとも指摘した。
あるワグネルの元部隊長は国家親衛隊の指揮下にある志願兵部隊に加わるよう、戦闘員たちを説得しているという。
「ワグネル戦闘員のウクライナへの大規模な再配置が行われる可能性は少ない」とISWは指摘する。
「ワグネルの元戦闘員たちを前線の少しずつあちこちに送り込んでも、かつてのように戦場に大きな影響をもたらすとは考えにくい」
ブレンダン・コール
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