「葬儀屋は女性の仕事ではない」?...閉ざされた業界の扉をこじ開けて就いた「葬儀ディレクター」という天職とは
ニューズウィーク日本版 / 2023年10月16日 11時35分
イスラエルのネタニヤフ首相は10月15日、戦時内閣発足後、初の閣議を開き、イスラム組織ハマスを壊滅すると強調した。写真は同日、イスラエル軍による攻撃で煙の上がるガザ地区(2023年 ロイター/Amir Cohen)
<「女性には相応しくない」と言われ続け、突然解雇されたことも...。亡くなった人と悲しみに暮れる遺族に寄り添い続ける、この素晴らしく尊い仕事について>
イギリスで育った私は、物心ついてから葬儀屋になるのが夢だった。母によれば9歳くらいのときに「大きくなったら葬儀屋になる!」と言っていたという。
幼い頃から人の悲しみをすぐに感じ取ることができた。他人の感情を常に自分のものとして受け取っていたから、葬儀屋になれば悲しんでいる人々の役に立てると直感的に分かっていたのかもしれない。
学校のキャリアアドバイザーには、葬儀屋は宇宙飛行士になるのと同じくらい難しいと言われた。当時はどちらも男性の仕事と思われていたためだ。15歳になると、母が地元の葬儀会社に、1日だけ私に職業体験をさせてくれるよう頼んだ。諦めさせるためだ。
ところが、私は葬儀会社の仕事にすっかり魅了された。職員に次々と質問を浴びせたから、彼らは本当に疲れただろう。男性職員の1人に「なぜこの業界には女性がいないのですか」と尋ねると、私を見つめて言った。
「この仕事は、静かにしていなければならないことが多いからだよ」
職業体験の1日を終えて母が迎えに来たとき、「とても楽しかった!」と言うと、彼女は「失敗した......」という表情をした。それでも母は引き続き地元の葬儀会社を当たって、私を無給で働かせてほしいと頼んでくれた。しかしどこに行っても、葬儀屋は若い女の子にふさわしい場所ではないと断られた。
ようやく見つかったのが、遺体安置所の仕事だった。平日は朝8時から午後5時まで、土曜日は夜から翌朝4時まで、わずかだが有給で働いた。訓練を終えて18歳のとき、私は葬儀ディレクターとエンバーマー(遺体衛生保全士)に、イギリス女性最年少でなることができた。
しかしその2年後、突然解雇された。理由は不明だ。
すぐに次の仕事を探し始めた。募集側に性別が分からないよう、応募書類に「L・チャン」とだけ書いたこともある。しかし面接に行くと「申し訳ないが、時間の無駄です。女性を雇ったら、うちはすぐに倒産してしまう」と断られた。
みんな誰かの大切な人
葬儀屋は女性の仕事ではない──何度もそう言われて、ついに私は自分で葬儀屋を立ち上げることにした。私にとって大きな学びとなったのは、職業訓練中に親友が急逝したことだった。彼女の死を経験して、亡くなった人の遺体を大切に扱おうと誓った。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
体重は33キロに減り、電気も水道も止められて…22歳シングルマザー「ゴルフクラブ殴打殺人」 被害女性の母親が語る「犯人の主張に絶望」「なぜ娘が…」
NEWSポストセブン / 2024年7月23日 18時15分
-
「孤独死」背景に「セルフネグレクト」 引きこもり、外部と関係断ち実態顕在化しにくく
産経ニュース / 2024年7月21日 20時12分
-
「生後8か月で亡くなった愛娘に合う仏具が見つからない…」ガラス仏具店を開店した女性の想い
女子SPA! / 2024年7月17日 8時45分
-
なぜ現代人は「死」を意識しなくなったのか? 医学、哲学、葬儀、墓、遺品整理、霊柩車、死刑制度…28人の専門家が語る死への「正しい接し方」
集英社オンライン / 2024年7月17日 8時0分
-
藤本加代子・フジモトゆめグループ代表「女性活躍推進のアートをつくり、大阪・関西万博から世界に発信します」
財界オンライン / 2024年7月10日 7時0分
ランキング
-
1RIZIN「手越祐也の国歌独唱を批判」は失礼なのか 手越が辞退し、選手に批判が集まっているが…
東洋経済オンライン / 2024年7月24日 19時30分
-
2ドンキの「着るクーラー」昨対比3倍以上の売れ行き、人気の秘密は「+α」
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年7月24日 11時36分
-
3日経平均は続落で寄り付く、一時1000円超安 米株安と円高嫌気
ロイター / 2024年7月25日 9時36分
-
4だからファミリー客が次々と来店している…快進撃を続ける「丸源ラーメン」と競合チェーンの決定的違い
プレジデントオンライン / 2024年7月25日 10時15分
-
5「トヨタが日本を見捨てたら、日本人はもっと貧しくなる」説は本当か
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年7月24日 6時20分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください