岸田首相の大型経済対策...内容的には期待できそうなのに、効果が出るとは全く思えない理由
ニューズウィーク日本版 / 2023年10月19日 17時50分
<岸田首相が経済対策の「5本柱」を発表。それぞれの項目を見ると重要な施策も多いが、肝心なものが欠けている>
岸田政権が大型の経済対策を発表した。財源となる補正予算はかなりの規模になると予想され、解散も取り沙汰されている。今回、発表された経済対策は、やり方第ではそれなりの効果を発揮する可能性もあるが、項目を事務的に列挙しただけとの印象が拭えず、世論の受け止めは厳しい。
最も欠落しているのは、どのように景気を拡大させ賃金を上げていくのかというストーリーである。では、今回の発表のどこがいけなかったのだろうか。
岸田文雄首相が9月25日に発表した経済対策の5本柱の中身は、①物価対策(ガソリン代補助など)、②リスキリングなど持続的賃上げ、③工場の国内投資促進、④人口減少対策(デジタル化)、⑤国土強靱化となっている。これに加え、社会保険の加入によって労働者の手取りが減少する、いわゆる「年収の壁」への対応策や、賃上げ税制などが含まれている。
最大の問題は、これらがどのように賃上げや景気拡大につながるのかという道筋が見えないことである。岸田氏は「冷温経済」から「適温経済へ」といったキャッチフレーズを掲げたが、相変わらず抽象的で、正直、何を言っているのかよく分からない。
もっとも、列挙された各項目をよく見ると、重要と思われる施策も少なくない。経済政策には、短期的なものと中・長期的なもの、需要サイド(消費者)に効くものと、供給サイド(企業)に効くもの、という2つの評価軸がある。この2軸を中心に、成長のストーリーを組み合わせることで、実効性と説得力が格段に増してくる。
論理的ストーリーを展開すべきだった
例えば今回の対策については「設備投資倍増から賃金の上昇へ」といった具体的なキャッチフレーズを示し、税制改正や生産拠点の国内回帰支援策(③に相当)によって企業に設備投資を促し、これによって今後の成長と賃上げを実現するという論理的ストーリーを展開すべきだった。
その道筋の中で、企業が設備投資に躊躇しないよう、短期的な家計の直接支援によって購買力を高め(①に相当)、設備投資の効果が持続するよう、生産性の向上策を実施する(②に相当)。同時に、災害などで経済を停滞させないためインフラを再整備する(⑤)といった見せ方である。
この場合、企業が設備投資を行い、家計を支援すれば需要が増大して人手不足が深刻化する可能性がある。これを回避するため「年収の壁」対応とデジタル化支援(④に相当)によって企業の供給力を強化する、という流れであれば、経済学の理論にも沿いつつ、国民の理解度も上がったのではないだろうか。
岸田氏は、派閥の創始者である池田勇人元首相の経済政策を模範にしているとされる。池田氏が提唱した「所得倍増」というキーワードは、安保闘争で疲弊していた国民の心に響き、当時は高成長が続いていたため、容易に所得を2倍に拡大できた。
だが、今の時代はそうした環境にはなく、その中で賃金を確実に上げていくには、明確な道筋を示し、それに基づいて確実に政策を実施していく努力が必要となる。当初はそれが、岸田氏の掲げる「新しい資本主義」だったのかもしれないが、残念なことに国民の間に十分に浸透しているとは言い難い。
解散が取り沙汰される今、岸田氏に求められているのは具体的な物語を国民に示すことである。
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