イスラエルでもハマスでもない「この戦争の勝者はイランだけ」...想定される3つのシナリオとは?
ニューズウィーク日本版 / 2023年10月19日 9時30分
イランは80年代前半以来、イスラエルに抵抗する過激派組織を支援。巨額の資金援助を行う一方、自国の革命防衛隊とレバノンにあるヒズボラの拠点で、数千人のパレスチナ人戦闘員に軍事訓練を行ってきた。
イランは革命防衛隊とヒズボラを通じ、イスラム聖戦とハマスの攻撃力を鍛えてきた。この2つの組織の戦闘員は今、イスラエルとアメリカへの「抵抗の枢軸」を成すイランにとって不可欠な存在だ。
イランはアメリカともイスラエルとも、じかに相対するリスクを冒すことはできない。しかしイランが提供する武器や資金は、イスラエルに対するパレスチナ武装勢力の戦力を増強する役割を果たしている。実際に2020年以降、両者間の紛争はエスカレートし、それによる死者の数も着実に増えている。
もちろんこれは、今回のハマスの攻撃をイランが命じたという意味ではない。イランがパレスチナ武装勢力を支配しているわけでもない。彼らはイランの操り人形ではない。それでもイランの指導部は、ハマスの攻撃を歓迎した。イランにとっては好都合なタイミングであり、地域におけるイランの覇権争いにプラスになるからだ。
攻撃の前の週には、サウジアラビアがイスラエルとの国交正常化への取り組みを中断したという報道があったが、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子はこれを否定していた。
ネタニヤフの出方も想定内
両国の国交正常化が実現すれば、アメリカ外交にとって指折りの成果になるだろう。例えば、20年の「アブラハム合意」に比すべきものになる。この合意はアメリカの仲介により、イスラエルとアラブ首長国連邦、バーレーン、モロッコが、イスラエルとアラブ諸国の国交正常化と平和的な関係構築を目指して署名した。
イランの最高指導者アリ・ハメネイは、アブラハム合意に強く反発。アラブ諸国による合意署名は「世界のイスラム社会に対する反逆行為」だと非難した。
ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララは、今回の対イスラエル攻撃をハメネイに同調して支持。この攻撃は「特に敵(イスラエル)との関係正常化を目指す者たち」へのメッセージだと警告した。
イスラエルが取ると予想される強硬な対応は、短期的にはイスラエルとサウジアラビアの国交正常化への取り組みを困難にし、イランの狙いにはプラスになる可能性が高い。
イスラエルの報復作戦についてネタニヤフは、3つの目標を挙げている。
①侵入者の脅威を取り除いて攻撃を受けた地域の平和を取り戻す、②ガザにいる「敵」から「莫大な代価」を取り立てる、③その他の前線も強化して「この戦争に誤って参加する勢力」がないようにする。3つ目の目標は遠回しではあるが、ヒズボラとイランへの明確な警告だ。
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