「哲学書」と「自己啓発書」の違いは何か...今のあなたに必要なのは「答えの提示」、それとも「問い立て」?
ニューズウィーク日本版 / 2023年11月3日 9時58分
このように、自己啓発書は、私たちが日常生活で抱く様々な「悩み」を問題にし、解決すべく、答えを提示してくれます。
他方で、哲学書は、問いを立て一時的な答えを導きますが、自己啓発書と異なるのは、答えの提示で終わるのではなく、その答えからさらに新たな問いを立てるのです。
この「答えから新たな問いを立てる」ということの説明に入る前に、もう少し言い添えておきます。哲学書と自己啓発書が非常に似ている場合もあります。
しかし、哲学書と呼ばれるもの全体から比べて、(私の知る限り)あまり多くはありません。
それ以外の大部分の哲学書には、その人の人生における「悩み」を直接解決してくれるような答えは書かれていないのです。
なぜ哲学は人生観、世界観を一変させるのか
では、哲学書には何が書かれているのでしょうか。哲学書には、私や世界が存在することの神秘が書かれています。その神秘により、哲学書は私たちの人生観、世界観を一変させるのです。
ここで私の言う神秘とは、「わからないこと」という意味です。ここで、「ちょっと待って」という声が聞こえてきそうですね。
そもそも哲学とは、知を愛するという意味であり、知の営みを通して、知るということに重きが置かれているのではないのか? 知ることに重きが置かれているのに、神秘という「わからないこと」が人生観や世界観を一変させるとはどういうことか?
この質問にお答えしつつ、先ほどの「答えから新たな問いを立てる」ということを説明してみます。
たとえば、カント(1724 〜1804)の『純粋理性批判』(岩波文庫)などは、人間はここまで考えることができるのだという知の営みの奥深さを実感させてくれます。カントは、人間が何かを知るとはどのようにして可能かと問いを立て、とことん考え抜きました。
それでも、カントの考えたことに対して、現在でも多くの新たな問いが研究者によって立てられています。つまり、カントの「考えたこと=最終的な答え」で終わりというわけではなく、そのカントの答えから新たな問いが生まれているのです。
批判とは悪口や非難のことではない
哲学では、このようにカントの答えから新たな問いを立てることを「カントを批判する」と言います。批判するという言葉は、人の悪口を言ったり、人を非難するという意味ではありません。カントの考えたことを吟味し、検討するという建設的な意味です。
したがって、私たちがカントを読むなかで、次の違いが生まれます。
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