恋をするとなぜ私たちは「いい人」になるのか?...池田晶子の「内なる善」とは
ニューズウィーク日本版 / 2023年11月4日 9時25分
実在および実在のうち最も光り輝くものを観ることに堪こらえうるようになるまで、(引用者註:魂を)導いて行かなければならないのだ。そして、その最も光り輝くものというのは、われわれの主張では、〈善〉にほかならぬ。(『前掲書』下巻)
これは、善のイデアを「最も光り輝くもの」、つまり太陽にたとえているので、「太陽の比喩」と呼ばれています。
「実在」とは、実際に存在するものという意味です。実際に存在するあらゆるものの中で、最も光り輝くものは、太陽にたとえられた善に他ならない、とソクラテスは言っているのです。「善のイデア」は、光り輝く太陽のように、あらゆるものを遍(あまね)く照らし出します。
さらに、プラトンが『パイドン』(岩波文庫)の中でソクラテスに語らせている「想起説(そうきせつ)」によると、人間の魂は生まれる前に、天上においてこの「善のイデア」をすでに見て、知っていたのだとされます。
ところが、魂は生まれたときにこの「善のイデア」を忘れてしまいます。そこで再度、魂は「善のイデア」を想い起こそうとする。この想い起こすことを、人は「学ぶ」と呼んでいるのだ、と(『前掲書』参照)。
このように、生まれながらにして知っていたはずの善を忘れ、ただただ法律に反するからその行為をしないというレベルで、人間は生きてしまいがちかもしれません。
人間は、「善のイデア」を知る良心という内的基準の高いレベルから、法律という外的基準にだけに意識がいきがちな低いレベルに甘んじてしまうのではないでしょうか。
関野哲也(せきの・てつや)・哲学博士(Docteur en Philosophie)/文筆家/翻訳家
1977年、静岡県生まれ。フランス・メッス大学哲学科学士・修士過程修了後、リヨン第三大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は宗教哲学、言語哲学。特にウィトゲンシュタイン、シモーヌ・ヴェイユ研究。留学後、フランス語の翻訳者・通訳者として働くが、双極性障害を発症。その後、ドライバー、障がい者グループホーム職員、工場勤務などを経験。現在は「生きることがそのまま哲学すること」という考えを追求しながら、興味が趣くままに読み、訳し、研究し、書いている。著書に『池田晶子 語りえぬものを語る、その先へ』(Amazon Kindle)がある。
『よくよく考え抜いたら、世界はきらめいていた』
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ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
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