中国との国境紛争でブータンが譲歩? インドは黙っていられない
ニューズウィーク日本版 / 2023年11月2日 18時0分
中国社会科学院アジア太平洋・グローバル戦略研究院のアジア専門家である孫西輝は、ブータンに対するインドの影響力は「覇権的」だと説明する。
孫は中国政府系の英字紙チャイナ・デイリーへの寄稿の中で、「インドはブータンの安全保障面と経済面のライフラインを握ることで、ブータン国内外の問題に介入している。このことはインド政府の対ブータン政策における地域覇権主義を浮き彫りにしている」と指摘した。
中国はブータンに対して、直接的な外交関係の樹立を促しているが、それを実現するためには、国連安保理の常任理事国と正式な外交関係を持たないというブータンの政策を変える必要がある。ブータンはアメリカとも正式な外交関係を築いておらず、インドが両国の仲介役を果たしている。
今後ブータンが外交関係を拡大するにあたっては、安全保障面の後ろ盾であるインドに容認してもらう必要がある。インドは現在、中国と戦略的に対立しており、インド政府が中国とブータンの直接的な外交関係樹立に同意する可能性は低いだろう。
しかしブータンのロテ・ツェリン首相はインドの新聞「ヒンズー」とのインタビューの中で、「理論的には、ブータンが中国との二国間関係を持つことに何ら問題はない。問題はいつ、どのように関係を築くかだ」と発言した。
入植地建設で中国が強い立場に
ブータンはまた、中国との外交関係樹立に向けた動きを公然と示唆している。ブータン外務省のウェブサイトには、「ブータンは『一つの中国』政策を支持し、共通の利益がある諸問題について中国と関わりを持っている」という声明が掲載されている。
中国がブータンに直接的な外交関係の樹立を働きかけるのは、今回が初めてではない。両国が領有権を争う国境地域に複数の入植地も建設している。南シナ海での「グレーゾーン戦略」を彷彿とさせる動きだ。
この建設活動が現地の実情を実質的に一変させ、中国が強い立場からブータンとの交渉を行うのを可能にした。2017年には、ブータンが領有権を主張するドクラム地方で、中国軍とインド軍がにらみ合いを続けた。中国はドクラムに恒久的な軍事用設備を構築し、ブータンに提案している「領土交換」の対象地域にドクラムを入れるよう要求している。
ある匿名の情報筋が本誌に語ったところによれば、ブータンと中国の合同技術チームは今後、まずは地上での領土交換の対象となる地域(境界)の画定に取り組む予定だ。この人物は、「ブータンは国境問題が解決するまで、中国との直接的な外交関係を樹立することはできない」と述べた。
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