私たちが「ガンダム」になったとき、心のバリアは消えるのか?...韓国の障害者が鳴らすテクノロジー礼賛への警鐘
ニューズウィーク日本版 / 2023年11月22日 12時50分
さらに気管切開手術を受け、発する言葉はAIに、表情はアバターに託すことを決断し、自分のことをヒューマン・サイボーグと呼んだ。
スコットさんは、肉体を動かせなくても最後まで自分の意思を発信し、自分らしく生きたい、そして未来の難病患者の希望になりたいと話し、メディアにもたびたび取り上げられた。
その実験の過程は、自伝『ネオ・ヒューマン 究極の自由を得る未来』という本にも詳しいので、興味がある人はぜひ読んでほしい。
しかし、一方で『サイボーグになる』という本は、最新テクノロジーで障害を「乗りこえる」「克服する」ことをそこまで礼賛しない。むしろ、それを唯一の解決策としてしまう「テクノエイブリズム」を批判する。
たとえば、いま克服することが難しい障害を解決する技術革新ばかりが熱く注目されることについて、チョヨプさんはこう書いている。
「絶望的で挫折ばかりの現実だけど、将来もっと技術が発展したらきっと解決する、という希望を持っていきましょう」。希望のない現実で希望を求めようとするその気持ちは理解できる。でも未来ではなく今ここで、よりよく生きることはできないだろうか? 治療と回復しか道はないとされるなら、障害者のより良い生活はいつまでたっても「お預け」のままだ。
チョヨプさん自身も、補聴器だけでは聞こえない音や入ってこない情報が多くあり、他の音声字幕変換技術によってその不足を補ってきたという体験がある。
だから、テクノロジーがいずれ一発逆転劇で全てを解決し、劇的な治癒や回復を行う日がくる、そして人類は歩けない人でもモビルスーツを着て自由に歩く、そういう未来の夢や約束を信じれば信じるほど、実はいまちょっとした工夫で超えられるはずのバリアをなくす努力が損なわれてしまうかもしれないと警鐘を鳴らす。
チョヨプさんはさらにこうも書いている。
「車椅子のためにスロープを設置することよりロボットスーツの方が注目され、賞賛を浴びるのはなぜだろうか。それは、移動補助機器を利用することにより「歩く」ことのほうが「正常さ」に近いと考えられているからだ。
本は、「非正常」を「正常」に近づけることだけが、解決策でもなければ、良いことでもないのではないか、と問う。モビルスーツを着るのではなく、その人がその人の肉体のままで生活することをサポートする技術は、すでにそこにあるのだ。
スロープや点字ブロック、エレベーターや音声案内、歩行ガイド、手話。一見すると地味でローテクなものこそ、多くの人がその恩恵を受けられる可能性も大きい。
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