「歴史は繰り返す」は正しくない...高坂正堯、30年越しの「新作」から考える「歴史を学ぶ」の本当の効用
ニューズウィーク日本版 / 2023年12月6日 10時50分
日本の高い貯蓄率、日米間の摩擦、国際社会への日本の発信、と縦横に論じるなかでの一コマである。財政赤字に関して当時と状況が異なる現在、日本人の「赤字に対する恐怖感」は変化したのか。
あるいは、共産主義倒壊後の資本主義と民主主義について、こう警鐘を鳴らしている。
「共産主義との対抗関係があったから、自分たちのシステムが本当にいいのか悪いのか考えてくるのを怠ってきた。その点を今こそ考えるべきではないでしょうか」
(『歴史としての二十世紀』、151頁)
「資本主義と大衆民主主義の組み合わせは共産主義と同じくらい問題が多いのです。今までうまく機能していたのは、いくつかの前提が満たされていたからです」(同書、181頁)
現在のリベラル・デモクラシーの困難を予見していたようにも見える。ただ、インターネット・SNSの普及に伴う言論空間の変容など、高坂の時代には発現していなかった要素もある。これらの差分をどう考えるか。
こうした問いや思考や気づきを、多々与えてくれる。読み手に開かれた語りである。「現実主義国際政治学の大家・高坂正堯」の教えを傾聴するというよりも、一つの歴史読みものとして、ときに自分なりに合いの手でも入れながら楽しむのがよいように思われる。
歴史を学ぶというとき、一方で、歴史的事実を知るということがある。他方で歴史の語りから、すなわち歴史をどう捉え論じるかというところからも得られるものがある。高坂の歴史語りはまさに後者の点で、大きな意義を持つ。
最後に一つ。この本(『歴史としての二十世紀』)の読者の中には、1990年の講演を実際に聴いた方がいるはずである。当時の印象はどうであったか、この本を改めて読んでどのような感想を持ったか、聞いてみたいものである。
佐々木雄一(Yuichi Sasaki)
1987年生まれ。明治学院大学法学部准教授。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。専門は日本政治外交史。著書に、『帝国日本の外交1894-1922』(東京大学出版会)、『陸奥宗光』(中公新書)、『リーダーたちの日清戦争』(吉川弘文館)、『近代日本外交史』(中公新書)など。
『歴史としての二十世紀』
高坂正堯[著]
新潮社[刊]
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