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ホラー映画『エクソシスト』のリアルなリスク、悪魔祓いの虚構を描く危険性

ニューズウィーク日本版 / 2023年12月4日 11時56分

だが現実を見てほしい。

この広義の「悪魔祓い」は実に多様で異質な観念を一くくりにしている。実際には、その背景にある信仰も悪霊退治に用いる手段も大きく異なる。

実際に誰かに悪魔祓いの儀式を施す場合には、その対象となる人物の自主性と、その人物を保護する必要性とのバランスを慎重に考慮しなければならない。

およそ民主的で人権を尊重する法的枠組みにおいては、信仰の自由と文化の多様性を尊重しなければならない。

しかし一方で、自分で自分を十分に擁護できない人々には救いの手を差し伸べなければならない。

つまり子供や、大人でも精神疾患や何らかの障害を抱える人が対象の場合、どの段階で悪魔祓いの儀式を施すかの決断は非常に難しい。

世の中には、憑依(ひょうい)現象を誰にでも起こり得る不運な出来事と見なす文化がある一方、それを故意に悪事に手を染めた結果と見なし、あるいはその人物の気質(あるいは魂)に生来の欠陥があると決め付ける文化もある。

後者の場合は、憑依された人を危険視し、敵視し、時には攻撃したりもする。

そうした状況下では、おとなしく悪魔祓いの儀式を受け入れない限り、その人物が地域社会に復帰することは難しい。

邪悪な存在は人間の体を乗っ取り、その自由意思を封じていると考える信仰もある。その場合は、悪魔祓いの儀式に対するいかなる抵抗も本人ではなく霊の意思と理解される。

だから抵抗しても無駄だ。

逆に、憑依された人にも何らかの自由意思が残っていると考えられる場合、悪魔祓いへの参加を拒めば、自らの意思で悪を選択した証拠と見なされかねない。

無用の死を招く可能性も

悪霊除去の方法も多彩で、静かな祈りもあれば激しい暴行もある。

危険な、虐待に等しい手段が用いられることもあり、有害物の摂取を強要されるかもしれない。ちなみに悪魔祓いと称する儀式での死亡原因には塩分の過剰摂取や溺死、致死量レベルの物質の投与などが含まれる。

これらを考慮すると、悪魔祓いが多くの文化に共通する本質的に正しくて普遍的な行為だというメッセージを伝えることには問題がある。

もちろん、観客には事実と創作を区別する能力があるだろうし、誰もエクソシスト映画をドキュメンタリーと勘違いはしないだろう。

しかしポップカルチャーの持つ影響力の大きさは無視できない。

警察や行政が少数派集団の信仰や慣習を十分に理解しているとは限らず、そのせいで問題を起こすこともある。危険な状況と誤認して無用な介入をすることもあるだろう。

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