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「代理出産」は本当に身勝手なのか?

ニューズウィーク日本版 / 2023年12月1日 13時55分

 コンポーザーのAyaseとボーカルのikuraからなるユニット。Ayase は1994年、山口県出身。ikuraは2000年、東京都出身。第71、72回NHK紅白歌合戦に2年連続で出場。23年、TikTok LIVEでも視聴者数の国内最高記録を打ち立てた。 Photos by Takao Iwasawa(The VOICE MANAGEMENT), Styling by Shona Funahashi , Hair & make-up by Nari

<遺伝子も子宮も提供しないけれど心は子供にささげる、そう決意した背景には夫婦の絆と困難な事情があった...>

現在30代の私は、今までありとあらゆる場面で妊娠出産について聞かれてきた。寝食を忘れて論文の執筆と格闘していた20代の大学院時代でさえ、いつ子供を産むのかと当たり前のように尋ねられた。

姉の結婚式でも学会でも聞かれた。エレベーターでは狭い金属の箱に5秒乗り合わせただけで人様のプライバシーに立ち入る権利があると思い込んだらしい赤の他人に、要らぬお節介をされた。

子育ての環境は完璧に整っていた。愛する夫とは20年前から共に笑い、共に生きてきた。2人とも安定した仕事に就き、持ち家があり、育児を手伝おうと待ち構えている人々の輪にも恵まれていた。

それでも子供について聞かれると、私は「今はちょっと」「そのうちに」「分かりません」と言葉を濁した。

10代前半から、自分のことはよく理解していた。書き言葉であれ話し言葉であれ、言語に接すると心が躍った。記憶力が抜群で、他人の感情を鋭く見抜き、床をのたうち回るほど生理痛がひどかった。

イタリアに住んで物書きになるのが夢で、子供は要らない。夢見る未来に、母親になった自分の姿はなかった。

だから20代の若さで早期閉経と診断されても動じなかった。私の体に、卵子はほとんど残っていなかった。

他人からの問いかけに対し、「そう簡単にはいかないんです」と返したこともある。真実に近い答えだった。

キャリアと健康を二の次三の次にして生殖することを期待する社会にあらがうのは、簡単なことではない。未来のわが子を想像しただけで目がきらきらする夫から、子育ての機会を奪うのは簡単なことではない。体外受精も子宮内膜症の治療も、簡単ではない。

私は不妊治療で心も体もぼろぼろになり、貯金は底を突いて借金が増えた。夜中に独りで泣き、嘔吐し、不妊治療をやめたいと苦しみながら一睡もできず、それでも翌朝には体の健康よりメンタルの安定を重視する専門医の前で平静を装った。

実子でなくても愛せる

はた目には子づくりを諦めたように見えただろう。だが夫と私は諦めるどころか、本能を否定せず自分らしく生きられる道を選んだ。

譲歩は最高の愛情表現だった。私の心身の健康と願いを犠牲にしてまで子供を産み育てることはないと、夫と私は結論を出した。

そこで2人の女性に私の代役を頼むことにした。匿名の卵子ドナーと代理母のマーゴットだ。私は遺伝子も子宮も提供しないが、誓って心は生まれてくる子供にささげる。

私たちのやり方は型破りで特権的で、身勝手だ。一部にはカネにものをいわせた「犯罪行為」と責める人もいる。

犯罪行為については、代理出産を4度経験したマーゴットが否定するだろう。

出産と産後のケアを含めて、経費は私たちが持つ。彼女の心身の健康とプライバシーは、医師と弁護士がしっかり守る。私たちとの交流はこの「取引」の後も続く。要するに子供は出生の経緯を知らされ、マーゴットにも会う。

妊娠出産について聞かれても、私はもうはぐらかさない。「おなかを痛めた子供でなくても大切に育てます」と、胸を張って答える。

そしてこの決断を身勝手で不自然だと非難する赤の他人には、きっぱり言い返す。「余計なお世話です」と。

代理母のプロセス

The Process of Surrogate

  

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