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出稼ぎ労働者に寄り添う深圳と重慶、冷酷な北京

ニューズウィーク日本版 / 2023年12月7日 14時25分

私は、北京市が異様に閉鎖性を強めていることを2017年頃から意識するようになった。北京市と隣接する天津市や河北省との間は何本もの道路でつながっているが、2017年夏に天津市に工場見学に行ってバスで北京に帰ってくるとき、バスは突然、高速道路を外れて横の公安検査所へ向かった。

下の写真はそのときに撮ったものであるが、写真の左側にガラガラの道路が見える。これが本来の高速道路であり、かつてはこちらを通って特段の検査もなしに北京市に入ることができた。ところが、2017~19年には天津市や河北省のどの道路から北京市に入るときにも車は「公安検査」という関所を通る必要があり、そこで車の乗員の身分証チェックが行われた。関所のところでは当然渋滞が発生する。検査はテロ防止を目的としたものなのだろうが、これがあるために北京に車で入るのに渋滞も含めて30分は余計に時間がかかり、はたしてその膨大な無駄を必要とするほどの大きなリスクがあるのか、と首をひねってしまう。

天津から北京へ入る車は高速道路の途中で公安検査所へ迂回させられる(筆者撮影・2017年8月)

この検査に象徴される北京市政府の閉鎖性と強権性は、出稼ぎ労働者たちが住む村に対しても容赦なく発揮されている。

2017年11月に、北京市郊外の出稼ぎ労働者たちが住む村で簡易宿泊所の火災が起き、19人が亡くなった。火災が発生したアパートは東西80メートル、南北76メートルもある地上2階、地下1階の建物だった。2階には305の居室、1階にはレストラン、商店、銭湯、アパレル工場などが入っていた。その地下にあった冷蔵倉庫で電気のショートが発生したことが火災の原因だが、北京市政府が取った対策は火災を起こしたアパートの責任者を処罰するだけでなく、村の住民を2週間以内にすべて追い出し、村全体を潰すことであった。

北京の火災があぶり出した中国の都市化の矛盾
火災から2週間で抹消された出稼ぎ労働者4万人が住む町

4万人が営んでいた生活と生産の痕跡

その村の名は「新建村」という。深圳の城中村とは違って、新建村は北京市の中心から南へ20キロメートルも離れた田園地帯にある。したがって、ここを城中村(都市の中の村)と呼ぶのは正確ではない。

この村に隣接した地域に2002年から地元の鎮政府がアパレル工場を誘致し、アパレル、電子、自動車部品などの工場が並ぶ工業団地ができた。新建村はその工業団地で働く労働者たちの住む場所として発展し、東西1.1キロメートル、南北1キロメートルの場所に2階建てぐらいの簡易宿泊所などが集まっていた。村にはスーパー、理髪店、服屋、携帯電話店、診療所、パン屋、理髪店、銭湯、中国各地の料理のレストランなど生活に必要な商業施設が完備し、従業員5~30人ぐらいの零細なアパレル縫製工場もたくさんあった。村の人口は4万人ぐらいだったと推計される。4万人の生活と生産の場を北京市政府は違法建築を取り締まるという名目によってわずか2週間で潰してしまったのである。

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