1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 国際
  4. 国際総合

19世紀フランスを舞台にした映画『ポトフ 美食家と料理人』:美食の世界への新たな視角

ニューズウィーク日本版 / 2023年12月15日 17時6分

後者では同様のことが、以下のように綴られている。

『こころを健康にする食事の科学』メアリー・ベス・オルブライト 大山晶訳(原書房、2023年)
「25年ほど前から、私たちは食べもの関係のテレビ番組や料理コンテストに夢中になっているが、それは私たちが料理をしなくなった部分的な原因、あるいは部分的な結果のどちらかだ。この25年間にテレビでシェフを見る人は大いに増えたが、実際に料理をする人の数は減少した(ポルノを見る人の数と実際にセックスをする人の数についても同じことが言える)。私たちは厄介な現実を受け入れるよりも、リアルな生活を巧妙に模倣した作りごとを観たいのだ」

ただし、そんなパラドックスの先に見えてくるものは次元が違う。前者でポーランは、人が料理から遠ざかるにつれて、食べものに対する見方が変わっていき、ついにはイメージだけで栄養を摂るようになると考える。

これに対して、食事を科学的に検証する後者では、脳が快楽をどのように経験するのかが明らかにされていく。オルブライトが注目する神経科学者モルテン・クリンゲルバッハによれば、すばらしい食事から得る快感は、すばらしいセックスと同じ脳のパターンを経ている。だが、超加工食品が徐々に快楽システムを変化させ、その結果、食品が快感をもたらす効果を低下させる可能性がある。

「料理を作り食べることで周囲の人々と深くて有意義なかかわりを作るのに近道はないように、どんなものを食べればよいか選ぶのには時間がかかります。それをしないでいると、一種の無快感症(喜びを感じられない症状)が表面化し、人々が食に対して抱いている一種の不安のようなものが見えてくるのです」

料理と愛情の間の微妙なバランス

トラン・アン・ユンが切り拓く料理の世界は、そんな現代の料理の状況を頭に入れておくとより興味深くなる。では彼は、このドラマでなにをどのように省略しているのか。

皇太子が催した晩餐会の料理にうんざりしたドダンは、皇太子をポトフでもてなすことに決める。そんな美食をめぐる対決は盛り上がることだろうが、トラン・アン・ユンはそのことに関心がない。晩餐会は、その前に用意されたメニューの紹介(シェフが長々と読み上げる)が描かれただけで、ドダンと共に招かれた4人の美食仲間がその感想をウージェニーに語る場面に切り替わる。晩餐会は8時間もつづいたという。

トラン・アン・ユンがその代わりに時間を割くのは、ドダンとウージェニーの料理以外の関係だ。ドダンは彼女にずっと求婚しつづけている。このドラマでは、結婚は寝室の共有という表現に置き換えることができる。これまでドダンが夜に彼女の寝室を訪れても、受け入れられるとは限らなかったが、結婚すればそれが変わることが示唆されているからだ。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください