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2024年、ウクライナ停戦で世界は変わるか

ニューズウィーク日本版 / 2024年1月12日 17時15分

昨年末、東部ドネツク州の前線を訪れたゼレンスキー(左から2人目) UKRAINIAN PRESIDENTIAL PRESS SERVICEーHANDOUTーREUTERS

<現状での停戦はプーチンには利益になるかもしれないが、ゼレンスキーは辞任を求められることになるだろう>

この年末年始、欧米メディアは「ウクライナは領土を諦めてでも早く停戦しては?」という論調でにぎわった。米議会がウクライナ支援予算を止めていることもあり、ウクライナの財政は破綻の様相を強める。東部の戦線は膠着状態で、ウクライナ軍もロシア軍も前進が難しい。ドローンの発達によって、前進を企図して大軍が集結すれば偵察用ドローンで察知され、攻撃用ドローンやミサイルで精密攻撃されて戦力を大量に失ってしまうからだ。

ロシアでは徴兵が貧困地域、そして囚人の使役にほぼ限定されているため、大都市では戦争の実感が乏しい。それでも筆者のロシアの友人のSNSや世論調査は、平和への希求を示している。だから、3月の大統領選を前に動員令でも発しようものなら、何が起きるか分からない。戦線が膠着し、ウクライナの工業地帯を占領できている以上、プーチン大統領は停戦・和平をしてもいいし、それはむしろ彼の利益になるかもしれない。

一方、ウクライナのゼレンスキー大統領にとっては、欧米に詰め腹を切らされる形での停戦はやむを得ないかもしれないが、そのときは彼に辞任を求める声が強まることだろう。今まで戦争を主導してきた右翼の過激派は戦争継続を求めて跳ね上がりの行動をするだろうし、ゼレンスキーを「物理的に除去する」動きも起こすだろう。

ゼレンスキーは軍務の経験がないのに、軍に攻勢強化を無理強いし、ワレリー・ザルジニー軍総司令官と摩擦を生んでいる。世論も、徹底抗戦を求める声は次第に減少し、青年たちは動員強化に応ずるまい。ゼレンスキーの足元は空洞化しつつあるのだ。

「侵略を公認する停戦」は許されるか

その中でキーウ市長のビタリ・クリチコなど野党系政治家はゼレンスキー批判を公にし、ポロシェンコ前大統領は最大財閥の当主リナト・アフメトフと提携してクーデターを企図したと昨年12月初めに報道された。同時期に彼は、空港で出国を止められている。停戦後のウクライナには、汚職と陰謀にまみれ混乱した政情が戻ってくるだろう。

停戦の代償としてウクライナがNATO加盟を認められるという報道もあるが、これはロシアもNATO諸国も受け入れまい。

「ロシアの武力侵略を公認する形での停戦は許されるのか」と筆者も思う。しかし同じことは歴史上、いくつも例がある。というか、戦争の後はそれが普通だ。戦前の日本軍による満州占領、ソ連軍によるフィンランドやポーランド侵略をはじめ、戦後ソ連による東欧諸国制圧を西側が見過ごしたことなど、枚挙にいとまがない。

ただ、西側はロシア制裁の大半は続ける。西側製航空機に依存するロシアの国内航空は、部品供給を絶たれて破綻の様相を強めている。国防費の膨張、政府補助金付きの住宅・消費者ローンの膨張は、インフレを激化させるだろう。

ウクライナ停戦で、アメリカは欧州から手を引くか? それはない。欧州という有力な同盟相手を欠いたら、アメリカは米州大陸に閉じ籠もる地域大国に転落するからだ。たとえトランプが大統領になって欧州からの米軍撤退を唱えても、米軍は面従腹背で対応するだろう。それは、2021年以前のアフガニスタンで起きたことだ。

日本政府は2月19日に東京で、「日ウクライナ経済復興推進会議」を計画している。「平和への日本の貢献」をアピールすることに異存はないが、能登半島地震からの復興も大事だ。そして日本が資金を出しても、日本企業が受注できるのかどうか。事はじっくり進めてほしい。


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