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日本人の道徳的価値観と分断の萌芽

ニューズウィーク日本版 / 2024年2月7日 17時0分

図1 米国と日本における道徳基盤尺度の回答と政治的イデオロギーの関係(米国は30、日本は20問の短縮版を使った結果)

日本人の個人志向と連帯志向

上記5つの道徳基盤は、欧米人を対象とした調査結果を因子分析(観測された複数の変数の背後にある潜在的な関係を特定するための統計的手法) して特定されたものである。ただし、異なる国や文化、政治や宗教の文脈で、これらが基盤として機能するのかは明らかではない。実際、日本語版MFQを検証した先行研究(村山・三浦2019)では、5つの基盤の妥当性が低いことや、特定基盤の測定の信頼性に問題があることが指摘されている。

そこで、先行研究に倣って日本語のMFQ短縮版の回答を分析した(表1)。表内の数値は因子負荷量、つまり、因子1及び2との関連の強さを示している。擁護と公平で1つのまとまりを、忠誠と権威がもう1つのまとまりを形成していることがわかる。先行研究と同様に、前者は「個人志向」、後者は「連帯志向」として解釈することができる。個人志向とは、個人の権利や福祉に重きを置く価値観のことで、連帯志向とは集団の福祉と結束を重視する価値観のことである。この結果は、日本人の道徳的価値観をこれら2つの変数で捉えることの妥当性を示した村山・三浦(2019)の結果と合致する。

表1 道徳基盤尺度日本語版を用いたアンケート回答の因子分析(注:質問には道徳的な関連度と判断に関する2種類の質問があり、因子分析は質問の種類ごとに実行)

さらに、個人志向と連帯志向の観点から、原発再稼働、同性婚、移民受入という3つの社会問題との関連性を検証した(表2)。個人志向派は原発再稼働に反対傾向にあるのに対し、連帯志向派はそれを支持する傾向にある。また、連帯志向派は同性婚や移民受入に反対傾向にある一方で、個人志向派はこれらを支持する傾向がある。このように、社会問題に対する態度が個人志向と連帯志向で逆になる、「分断の萌芽」と解釈できるような様子がみられた。

表2 道徳的価値観と社会問題に対する態度(注:政治的イデオロギーの影響を調整した回帰分析で、回帰係数が正で有意な場合は◯、負で有意な場合は×)

日本人独特の神聖観

表1を再度見ると、神聖に関する項目が抜け落ちていることに気づくだろう。これは、MFQがキリスト教的な価値観を元にしているため、日本人の神聖観が適切に測定できていない可能性が考えられる 。SMPP調査では、日本人独特の神聖観を測定するために開発された「穢れ忌避尺度」(Kitamura and Matsuo 2021)に着目し、その一部を取り入れている。穢れ忌避尺度は、精神清浄(心が清められる)、信心尊重(神仏を尊重)、身体清浄(欲望のタブー視)、感染忌避(清潔志向)といった、日本人特有の神聖観に関する4つの下位尺度からなる。

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