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アラン・パーカー監督『バーディ』の強烈なラストシーンが僕たちを救う

ニューズウィーク日本版 / 2024年1月27日 20時18分

ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN

<好きな監督として名前を挙げるのに、絶対外せないのがアラン・パーカー。大学時代に観た『バーディ』は「すごい映画だ」と笑うしかなかった>

好きな映画は何かと質問されたとき、そのときの気分で答えは微妙に違う。言い換えれば映画への評価は自分の中でいつも揺れていて、そのときの気分や体調だけではなく、もしかしたら天候にだって左右されるのかもしれない。

好きな監督については、あまり揺れない。ただし多い。なかなか絞れない。だから質問されたときは複数の名前を挙げる。でも1人だけ、絶対に外せない監督がいる。

アラン・パーカーだ。



イギリス出身。広告関連の仕事をしていたが、20代後半にプロデューサーのデービッド・パットナムに指名されて『小さな恋のメロディ』(1971年)の原作・脚本を担当し、映画と関わるようになる。その5年後に自ら脚本を書いた『ダウンタウン物語』で監督デビューし、さらに2年後にオリバー・ストーンの脚本で『ミッドナイト・エクスプレス』を発表する。

この映画は衝撃だった。当時の僕は大学生。その後も『フェーム』『エンゼル・ハート』『ミシシッピー・バーニング』などアラン・パーカーの作品は全て観ている。

社会派と形容されることが多いが、『小さな恋のメロディ』やミュージカルの『フェーム』が示すように、実はその定義に収まらない監督だ。

84年にパーカーは『バーディ』を発表する。高校時代の親友だったバーディ(マシュー・モディーン)とアル(ニコラス・ケイジ)は、ベトナム戦争に徴兵される。幼い頃から翔とぶことに異常に執着していた内向的なバーディは、戦場の過酷な体験で心に大きな傷を負い、一言もしゃべらなくなって軍の精神科病院に収容される。

顔面を負傷して前線から戻ってきたアルは自らの治療を続けながら、ベッドの端で鳥のようにうずくまるバーディに面会する。閉ざされた彼の心を再び解放するため、アルは高校時代の2人の思い出を語り続ける。

面会は何日も続く。でもバーディはアルの言葉にまったく反応を示さない。感情を抑えきれなくなったアルに抱き締められながら、部屋の小窓に区切られた青空をじっと見つめ続けるばかりだ。

......ここまでストーリーラインを書いたけれど、この映画を知る上で、ストーリーそのものに意味はあまりない。この映画の本質はラストだ。これほどに強烈で、意表を突いて、観客を突き放して裏切って、そしてみずみずしいラストシーンは、その前もその後も見たことがない。

この映画を僕は、年上の友人と一緒に観に行った。映画が終わって劇場内が明るくなったとき、人をバカにしているよ、と彼は言った。本気で怒っていた。でも僕は笑っていた。笑うしかない。そして感動していた。すごい映画だ。2人の青春時代は甘く切なく、戦場は殺す側も殺される側も壊され、そして翼を持たないバーディは空を見つめ続ける。人はなぜ地を這いながら憎み合うのか。人はなぜ土地を奪い合いながら殺し合うのか。

ろうで貼り合わせた翼を付けたイカロスは高く飛びすぎたために太陽の熱でろうが溶け、落下する。人は飛べないのだ。まさしくその瞬間、映画のラストは僕たちを救う。あらためて思う。大好きな映画だ。

『バーディ』(1984年)
監督/アラン・パーカー
出演/マシュー・モディーン、ニコラス・ケイジ、ジョン・ハーキンス

<本誌2024年1月23日号掲載>



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