英「ポストオフィス」冤罪事件、「欠陥を把握していた」富士通の責任はどこまで及ぶのか?
ニューズウィーク日本版 / 2024年2月7日 18時30分
<英史上最大の冤罪事件を引き起こすきっかけとなった富士通の「ホライゾン」。顧客の問題における「システム会社の責任」を考える>
富士通がイギリスの郵便事業会社に納入したシステムをめぐり、史上最大の冤罪事件というスキャンダルに巻き込まれている。現時点では情報が錯綜しており真相は不明だが、システム障害が冤罪事件を引き起こすきっかけとなったのは間違いない。同社は直ちに原因究明を行い、説明責任を果たす必要がある。
富士通は1999年、現地子会社を通じ、イギリスの郵便事業会社ポストオフィスに会計システム「ホライゾン」を納入した。同システムでは窓口の現金残高とシステム上の数字が合わないなどトラブルが多発していたが、その事実はなぜか明らかにされなかった。
その結果、郵便局長など多数の職員に横領などの疑いがかかり、700人以上が起訴され、236人が刑務所に収監されるという前代未聞の冤罪事件に発展した。
イギリスでは関連するドラマが作られるなど大変な騒ぎとなっているが、不可解なのが富士通の立ち位置である。冤罪そのものはイギリスの警察や司法の問題だが、重要なのは、なぜ大規模なシステム障害が長年にわたって明るみに出なかったのかという点である。
一般論としては障害の責任は最終的に顧客が負う
あくまで一般論だが、システム会社は顧客との間で、システムを納入した段階で所有権が顧客に移転する契約を締結することが多い。運用開始後に障害が発生した場合には、速やかに顧客に報告して指示を仰ぐのが原則であり、システム会社側に故意や重大な瑕疵が存在しない限り、障害に伴う責任は最終的に顧客(この場合には郵便局)が負う。
契約によっては、システム会社が業務運用を請け負う形になっていることもあり、そのケースにおいては、富士通にも運用上の責任の一部が生じることになる。
システムに障害が発生する理由もある程度までは一般化できる。大抵の場合、純粋にシステム会社の技術力不足、管理能力不足で障害が発生するか、もしくは発注側の要求仕様(システムに対してどのような機能を実装するのかという指示)が曖昧で、ずさんな設計となりこれがトラブルを招くことが多い。
いずれにしてもシステム会社側は、契約さえしっかり締結していれば、それにのっとって一定の範囲内で責任を追うのが一般的であり、その範囲は合理的に決まってくる。だが、そうした観点で今回の騒動を眺めるとおかしなことばかりである。
富士通は「欠陥を把握していた」
富士通の幹部は「システムの欠陥について把握していた」と説明しており、「富士通が冤罪に関与していたことを謝罪したい」と述べているので、状況をかなりの部分まで認識していたことになる。一方、補償については「道義的義務がある」としており、契約に基づくものではないとのニュアンスも感じられる。
しっかりとした契約が成立しており、その中で障害が発生したのなら、富士通はその範囲で責任を果たせばよいはずだが、説明は曖昧なままだ。このため、英政府と富士通が結託して大規模な隠蔽を行っていたのではないか、富士通は日本の会社なので、全てを押し付けようとしているのではないかなど、様々な臆測が飛び交う状況となっている。
富士通は日本を代表するシステム会社の1つであり、マイナンバー関連をはじめ、日本の行政システムも数多く手がけている。このままでは行政デジタル化全体への不信感につながりかねない。
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