「日本の不思議さ」が浮き彫りに......台湾のお祭り的な選挙現場が教えてくれること
ニューズウィーク日本版 / 2024年2月8日 17時38分
<なぜ台湾の投票率は7割超で、選挙集会もフェスのように大盛り上がりなのか?「選挙大好き」芸人のプチ鹿島さんが読み解きます>
台湾総統選を見に行ってきた。私は「選挙は祭りだ!」と考え、ここ数年日本各地の選挙戦を現場で見ているが、台湾は本当にお祭りだった。
与野党の各集会に出てみると20万人以上集まっていて、若者や家族連れも多い。音楽ライブもありフェスのようで、毎日が年越し気分だった。
「投票のため台湾に帰ってきている」と日本語でたくさん話しかけられた。台湾には期日前投票や不在者投票がないのに、投票率は7割超。なぜこんなに選挙が熱い? いろいろ聞いてみたら「多様な考えがあるからこそ選挙で自分の考えを示さないと存在している意味がない」という言葉が印象的だった。「日本はなぜ投票率が低いの?」と聞き返され、そうだ、日本のほうが不思議だと気付く。
台湾の選挙を見ていろいろ考えた。まず4年に1度の総統選というシステムの分かりやすさ。政党も有権者も過去4年の総括ができ、皆がその日に備えるから盛り上がりやすいのだろう。日本は選挙制度が異なり、単純比較はできない。だが祭りに近づける工夫はできるのでは?
「シラケ解散」を制限する方法とは
例えば首相の専権事項としての憲法7条に基づく「解散権」を制限するのも一案ではないか。これは権力側が有利なときに解散を仕掛けられる。「また選挙?」というタイミングで無党派層をシラケさせ低投票率を狙い、組織票を持つ党や候補が有利になる選挙だって可能。いわば祭りにさせない選挙ができるのだ。こういう解散権の乱用は制限すべきではないか。ちなみに台湾総統にも解散権はあるが使われたことがない。
台湾では「日本のねじれ」も実感した。日本の保守系メディアやSNSを見ると台湾与党・民進党への親近感を隠さない。中国に厳しいからだ。だが同党は同性婚容認や原発停止を進め、死刑制度廃止に前向きなどかなりリベラルだ。政策を見ないで(もしくは見て見ぬふり?)、対中国の距離だけで留飲を下げるような振る舞いは、実は日本のリベラルも同じだ(民進党には防衛費に力を入れている現実もある)。つまり「私から見て好ましい台湾」をそれぞれ部分的に見ている自覚が必要だ。
外から見るとある程度そうなってしまうから現地に行く面白さがあるのかもしれない。台湾では若者はイデオロギーだけでなく「家賃が高い」「給料が安い」など生活に関することにも声を上げていた。新興政党の民衆党はそんな若者層に支持されて存在感を示した。政治は自分ごと、という基本を目の当たりにした(生活や経済面で言いたいことがあるのは日本も同様だと思うが......)。
最後に。台湾では「権力に対する警戒」も実感した。現野党の国民党の一党独裁が続いた歴史もあり、長期政権に対する警戒感がかなりある。今回は政権交代がなかったが、議会に当たる立法院選で民進党は過半数を取れなかった。絶妙といえば絶妙な結果だ。台湾の有権者は政治家や権力に対して常に緊張感を与えている。下手をすれば政権交代させられる緊張感は不可欠だと感じた。
あれ? なぜこんな当たり前の結論になってしまったのだろう。やはり日本が不思議すぎるのかも。
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