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「エプスタインに襲われた過去」と向き合って声を上げる...深い傷を癒やす私の戦い

ニューズウィーク日本版 / 2024年3月3日 9時15分

トランプの刑事裁判が大統領選に与える影響は?(2月15日、ニューヨーク州の裁判所) JEENAH MOONーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<「旅するセラピスト」という仕事にだまされて稀代の性犯罪者のもとに送り込まれた過去を、性犯罪の撲滅を訴えることで乗り越えていく>

マッサージセラピストの卵だった私は、2002年にオハイオ州の学校からロサンゼルスの学校に移り、通学しながら仕事もしていた。

ある日、仕事をくれるという女性を同級生から紹介された。サラ・ケレンという名で、当時の私は知らなかったが、実は悪名高い性犯罪者ジェフリー・エプスタインのアシスタントだった。

「旅するマッサージセラピスト」って仕事なの、専属シェフのいるプライベートジェットで世界を飛び回れて、ボスは素敵な女性なの。サラはそう言った。夢みたいだった。

私はすぐにニューヨークへ飛び、素敵なボスになるはずのギレーヌ・マクスウェルの自宅を訪ねて面接を受けた。彼女は知的で親しみやすく、私はすっかり彼女を信用し、こんな上司の下で働けたら最高だと思った。

この時点で、私はもう十分に「飼いならされ」ていた。だから面接の最後にエプスタインという男に会えと言われても逆らえなかった。むしろ、それで「旅するセラピスト」の夢がかなうと信じた。

私はエプスタインの家に行った。彼はまだ食事中で、専属シェフもいた。気軽な会話を楽しんだ後、「オフィス」に場所を移そうと言われた。

その「オフィス」には有名人の写真がいっぱい飾ってあって、そこで面接みたいなことが始まったけれど、途中で世界が暗転した。彼は私を性的に暴行した。私は逃げ出し、二度と戻らなかった。

恐怖と混乱、自責の念と恥ずかしさに押しつぶされた。ロサンゼルスに戻ってからも誰にも言えなかった。もう目の前が真っ暗だった。

ようやく救いが見えたのは、5年余りたって息子が生まれたときだ。母として生きなくちゃと思うと、少しは元気が出て前を向けた。

性の売買と搾取の撲滅を

癒やしのプロセスには、山もあれば谷もある。忘れたいと思っても、そうはいかないこともある。そんなときにエプスタインの悪事が暴かれ、世界中で大騒ぎになった。

チャンスだ、と私は思った。この機会に自分の過去と正面から向き合って声を上げよう、そうすればきっと自分を取り戻せる、と。

私の思うに、世間の人はまだ、エプスタインやマクスウェルのような連中が最初から私たちを飼いならし、それで稼ごうとしていた事実を理解していない。彼らの悪意は計算ずくで利己的なものだ。私も、他の数え切れないほどの女性たちも、自分でそれを選んだわけじゃない。

今の世界は腐り切っている。そしてエプスタインのような男は、エリート社会に腐敗を蔓延させる能力を備えている。その片棒を担いだマクスウェルが有罪判決を受け、投獄されたのは当然だ。やっと正義への一歩が踏み出された。

でも、もっと大事なことが2つあると私は思う。一連の事件に関与した全ての人の責任が問われること、そして世界中の人が人身売買や性的搾取の問題に本気で取り組んでくれることだ。

アメリカでは年間36万人もの子供が行方不明になり、その多くは性的に搾取される運命にある。いま自宅で親と一緒にいる子供たちの多くも、ネットを通じて誰かに飼いならされ、性的に搾取されている恐れがある。

この世界から性的虐待や搾取が根絶されてこそ正義は実現する。私はそう思う。

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