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TSMCが人材を独占し、日本企業は生き残れなくなる? 高給だけじゃない「熊本工場」の衝撃度

ニューズウィーク日本版 / 2024年3月14日 17時14分

日本の1人当たりGDPが増えないため、日本人の給与も少しずつしか上がらない。そしてその傾向はハイテク産業でより顕著だ。TSMCの現在の給与水準は日本のほとんどの大企業を上回っている。

JASMが提示した初任給は大卒が28万円、修士が32万円、博士が36万円だが、熊本県が2021年4月に地元企業を対象として行った調査によると、大卒エンジニアの平均初任給はわずか19万円で、JASMの給与が地元水準を大きく上回っていることが分かった。

JASMの給与に多くの日系企業が衝撃を受けたという。TSMCが高給で人材を独り占めしたらわれわれが生き残れなくなると多くの企業が愚痴をこぼしたが、この衝撃がソニーや三菱、ルネサスエレクトロニクス、東芝、ロームといった半導体メーカーの採用に影響を与えるのは間違いないだろう。

次に、TSMCが日本に対しては、熊本の12インチ工場以外にも、横浜と大阪へのIC設計センター(TSMCジャパンデザインセンター)の設置と、茨城県への3次元IC先端パッケージング研究開発センター(TSMCジャパン3DIC研究開発センター)の設置というかなり包括的な投資を行っている点だ。

IC設計分野では、TSMCは19年から既に東京大学と先端半導体の技術提携を行っており、20年には横浜に最初のIC設計センターを、22年末には大阪に2つ目のIC設計センターを設立した。

この2つのIC設計センターは台湾本社の研究開発センターと直結しており、3ナノメートル先端プロセスの研究開発に参加すると同時に、顧客である日本のIDM大手の設計サービスを支援することにもなっている。

ウエハー製造分野について日本の業界筋は、TSMCは今後、熊本に第2工場を設立して、より先進的な7ナノメートルプロセスを導入する可能性があるという(24年2月6日に正式決定。トヨタ自動車も出資し27年の開業を目指す)。

これらを総合すると、TSMCの日本での生産コストは比較的低く抑えられ、利益獲得の機会は大幅に増え、より包括的なレイアウトが行われたということになる。

日本の顧客とより深いパートナーシップを結ぶだけでなく、TSMCは日本を、設計やパッケージング・検査、より高度なプロセス等を研究開発し、人材を増員するための重要な海外拠点と見なし、特に半導体材料開発と人的資源における日本の優位性を吸収して、台湾の先端プロセスと先端パッケージングの量産能力をさらに向上させようとしている。

林 宏文
Lin Hung-Wen

台湾の経済・テクノロジー記者。経済日報記者、週刊誌「今周刊」副編集長などを経て作家に。TSMC取材30年の成果をまとめた『晶片島上的光芒(半導体の島・台湾の輝き)』を昨年7月に上梓(3月22日に日本語訳版『tsmc 世界を動かすヒミツ』がCCCメディアハウス社から刊行)。ほかに『恵普人才学(ヒューレット・パッカードの人材学)』、『商業大鰐SAMSUNG(ビジネスの大物SAMSUNG)』などの著書がある。

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<本誌2024年3月19/26日合併号掲載>

林 宏文(リン・ホンウェン、経済ジャーナリスト)


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