谷崎潤一郎はなぜ「女手の日本文学者」なのか...「漢字」と「ひらがな」が紡ぎ出す、日本語の表現世界
ニューズウィーク日本版 / 2024年3月29日 10時0分
谷崎の女と男の性をテーマとする物語は、ひらがな語=女手と漢字語=男手の混合、交雑する日本語の構造自体が強(し)いた物語が、女手寄りに具現した姿と言っていい。
その意味において谷崎は傑出した「女手の日本文学者」であった。だが、その日本語は西欧語に開かれることなく、自閉状態にとどまった。
谷崎文学は、男手(男)と女手(女)の世界つまりは漢字かな交じり文に迷い込んだ挙句につくり上げられた世界である。
それゆえ、必然的に『源氏物語』の現代語訳に取り組んだ。だが、男手の漏れ来る谷崎の書の姿を見るかぎり、平安上代様の女手を思慕する味の筆画が連続する書を残した与謝野晶子訳のほうが、『源氏物語』の世界の真に近いだろうと想像されるのである。
※谷崎潤一郎の引用した小説『春琴抄』は『谷崎潤一郎全集第13巻』、『文章読本』は『谷崎潤一郎全集第21巻』、『卍』は『谷崎潤一郎全集第11巻』、「詩と文字と」は『谷崎潤一郎全集第22巻』(すべて中央公論社)による
石川九楊(Kyuyo Ishikawa)
1945年福井県生まれ。京都大学法学部卒業。書家。京都精華大学名誉教授。 著書に『書の終焉──近現代史論』(同朋舎出版、サントリー学芸賞受賞)、『近代書史』(名古屋大学出版会、大佛次郎賞受賞)、『日本書史』(名古屋大学出版会、毎日出版文化賞受賞)、『中國書史』(京都大学学術出版会)。『筆蝕の構造』(筑摩書房)、『石川九楊の書道入門』(芸術新聞社)、『日本語とはどういう言語か』(中央公論新社)、『河東碧梧桐──表現の永続革命』(文藝春秋)ほか多数。『石川九楊著作集』(全一二巻、ミネルヴァ書房)を刊行。
『悪筆論──一枚の書は何を語るか-書体と文体』
石川九楊[著]
芸術新聞社[刊]
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
/58 東北の大震災、そして日本人に
毎日新聞 / 2024年5月21日 7時0分
-
ムーミン漫画全集が中国で発売、児童文学作家「ムーミンはゆるキャラ」―中国
Record China / 2024年5月20日 16時30分
-
朝ドラ『虎に翼』への批判に反論。「政治的」「ビールを酔うほど飲む女性はいなかった」がトンチンカンな理由
女子SPA! / 2024年5月15日 15時46分
-
谷崎潤一郎原作、インモラルな関係を男女逆転「卍 リバース」「痴人の愛 リバース」 壊滅的な愛、究極のマゾヒズムの行方が気になる予告&場面写真
映画.com / 2024年5月10日 18時0分
-
「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞の京都芸術大学大学院在学 上村裕香さんの新作「発光」が小説新潮 2024年5月号に掲載されました!
PR TIMES / 2024年5月6日 20時40分
ランキング
-
1中国外相、台湾新総統を批判 「国家と祖先を裏切る」
ロイター / 2024年5月21日 19時50分
-
2イラン大統領死亡、墜落ヘリは1960年代開発の米国製ベル212…制裁下で部品調達困難
読売新聞 / 2024年5月22日 0時28分
-
3インタビュー:ウクライナ、同盟国の支援加速・直接関与を働きかけ=ゼレンスキー氏
ロイター / 2024年5月21日 8時12分
-
4ウクライナにロシア領をもっと自由に攻撃させるべき リトアニア外相
AFPBB News / 2024年5月21日 14時34分
-
5ICCの逮捕状請求にイスラエル首相「恥知らずの決定だ」…バイデン大統領も「言語道断」
読売新聞 / 2024年5月21日 10時7分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください