オルテガが警告した「大衆の反逆」は日本では起こらないのか、それともすでに始まっているのか?
ニューズウィーク日本版 / 2024年4月17日 11時10分
少子化を反転させ人口減少を食い止める、賃上げ、経済成長、脱炭素社会、防衛力強化を実現する。なんでも約束してくれるなら、大衆は自分たちが反逆する必要を感じない。
政府の大衆懐柔の仕方は、駄々をこねる子供にさらに欲しいものを与える親のようである。オルテガのことばを借りれば、「慢心しきったお坊ちゃん」をさらに肥満させ増長させるに等しい。大衆はそれに甘えて、自分で考えない、行動を起こさない。
こうした傾向は、政府をも無責任にする。約束が守れなくても、財源がないと言い訳をすればなんとかなる。与野党を問わず、責任を取らない政治家と彼らのスキャンダルばかり追いかけるメディア自身が、大衆の一員でしかない。
一方政治家の指示に従った官僚は、自身の責任を感じない。大衆も無責任。政府も無責任。本当の危機が到来した時に、反逆し戦う勇気と力が誰にもなかったら、この優しい大衆の国は果たして生き永らえうるだろうか。
「強くて優しい大衆」と、「独り立ちしない無害な大衆」は違うはずだ。甘やかされた大衆とそれに媚びる政府のなれあいは、この国を脆弱にしないか。オルテガが警告した「大衆の反逆」が、悪意ある扇動者の出現によってかえって起こりはしないか。心配である。
阿川尚之(Naoyuki Agawa)
1951年生まれ。慶應義塾大学法学部中退、ジョージタウン大学スクール・オブ・フォーリン・サーヴィスならびにロースクール卒業。ソニー、米国法律事務所勤務等を経て、慶應義塾大学総合政策学部教授、同志社大学法学部特別客員教授などを務めた。2002年から2005年まで在米日本国大使館で公使を務める。主な著書に『アメリカン・ロイヤーの誕生』(中公新書)、『憲法で読むアメリカ史』(ちくま学芸文庫)、『憲法改正とは何か──アメリカ改憲史から考える』(新潮選書)など多数。
『アステイオン』99号
特集:境界を往還する芸術家たち
公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
CCCメディアハウス[刊]
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