総選挙大勝、それでも韓国進歩派に走る深い断層線
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月8日 19時24分
木村幹
<韓国総選挙の結果は周知の通り与党・国民の力の大敗。政局の主導権は野党の側に移ったように見えるが、それは野党に不安要因がないことを意味しない>
2024年4月10日、韓国で国会議員選挙(総選挙)が行われた。議会内における少数与党状態から出発した尹錫悦政権にとって、この選挙は、貴重な中間評価としての性格を有していた。勝てば議会の多数を確保し政権は安定するが、逆に負ければ政権終了時までの少数与党状態が確定し、早期のレームダック化が予測される、というわけである。
結果は周知のように与党「国民の力」の惨敗に終わった。獲得議席は総議席数300の過半数を大きく下回る108議席、得票率に至っては比例区で36.7%。1990年の民主自由党結党以来、二大政党の一角を占める保守政党として、最低の数字で惨敗した20年の前回国会議員選挙に次ぐ結果だった。
対して、進歩派の「共に民主党」と「祖国革新党」の得票率は合わせて50.9%。与党を15%近く上回った。
結果、野党が獲得した議席数は、最大野党である共に民主党が、比例区専用政党である「共に民主連合」のそれを合わせて175議席。これに文在寅政権期の法務部長官であった曺国が結党した祖国革新党が12議席、さらに与党から離脱した元国民の力代表の李俊錫が結党した改革新党が3議席で続いた。
尹はこれまで一貫して拒否し続けてきた、李在明・共に民主党代表との「領袖会談」に応じることを余儀なくされた。韓国の政局の主導権は、いったん野党の側に移ったかに見える。
最も重要な支持層を奪われる
とはいえ、それは野党に不安要因がないことを意味しない。なぜなら議席数で他党を圧倒した共に民主党であるが、その基盤は安泰とは言えないからだ。
世論調査会社リアルメーターの最新のデータで、共に民主党と国民の力の支持率の差はわずか1ポイント。にもかかわらず、前者が圧勝できた理由は、支持率で第3位の祖国革新党が地方区に候補者を出さず、共に民主党を支持したからだ。その祖国革新党が比例区で集めた得票率は支持率を上回る24.3%。共に民主党の26.7%に匹敵する数字になっている。
しかも、この2つの政党の支持基盤は同じではない。明瞭な特色を持つのは、祖国革新党の支持基盤である。
選挙当日に発表された出口調査によれば、祖国革新党に投票した人々は40代と50代に集中しており、しかも、男性が多くを占めている。彼らはこれまで、韓国の進歩派政党の中核的支持基盤となってきた人々であり、また80年代の民主化運動の流れをくむ人々である。
つまり、共に民主党は今回の選挙で、この最も重要な支持層を祖国革新党に奪われる形になっている。
対して、共に民主党と祖国革新党が競合した比例区で、共に民主党の投票において多くを占めたのは20代以下から30代の女性たちである。とりわけジェンダーに関心の強い20代以下の女性の支持が強く、この世代では半数を超える51%が同党に投票したと答えている。
曺が象徴する古い進歩勢力の考え方についていけない、「新しいリベラリズム」の信奉者が、消去法的にこの政党を支持しているよう見える。
80年代から続く古い民主化運動の流れをくむ人々と、新しいリベラリズムの価値観を重視する人々という、異なる2つの進歩勢力が、曺が率いる祖国革新党と李在明が率いる共に民主党に分かれて対峙する。「進歩派」という同じ看板を掲げながらも、異なる価値観を持つ人々がどこまで共闘を続けられるか、要注目である。
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