高齢者に「性感染症」が拡大、シニア世代のセックスをタブー視せず対策は急務に
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月9日 15時13分
ロビン・ホワイト(自然・環境担当)
<梅毒や淋病が熟年層の間で急増。背景に離婚率の上昇、コンドームの不使用、シニア向けデートアプリ、予防医学やライフスタイル向上、性的機能障害への治療薬の普及...>
アメリカの高齢者の間で、性感染症患者数が10年前と比べて2倍に増えている──そんな事実が新たな研究で明らかになった。
4月末にスペインで開催された第34回欧州臨床微生物感染症学会議に合わせて事前発表された研究によれば、淋病(りんびょう)や梅毒、尖圭(せんけい)コンジローマの感染報告数がベビーブーム世代で増えており、対策が急務だという。
問題の大きさを考えれば、シニア層が性感染症を気軽に話題にできるようにすることも必要だと強調する。
米疾病対策センター(CDC)によれば、55歳以上人口の性感染症罹患数はこの約10年間で倍増している。
「離婚率の上昇、避妊が不要になったことによるコンドームの不使用、性的機能障害治療薬の普及、シニア向け居住施設での集団生活やデートアプリの利用増」が理由として考えられると、研究発表者であるワルシャワ医科大学のユスティナ・コバルスカ教授は声明で指摘している。
「データには、実際の規模が反映されていない可能性もある。50歳以上の熟年層は性関連の医療サービスへのアクセスが限られ、当人側と医療関係者の双方が(罹患に付きまとう)汚名や気恥ずかしさを避けようとする。そのため、高齢者は性感染症について専門家に相談したがらない」
淋病罹患率を見ると、2015年は10万人当たり15人だったが、19年には10万人当たり57人に増加した。淋病は、放置すれば深刻な健康問題につながりかねないが、適切な治療によって完治が可能だ。
多くの性感染症は投薬によって効果的に治療できる。言い換えれば、重要なのは病気に対する理解だ。
高リスクなのは「寡夫」
高齢者の性的活動に関する誤解も感染増加の一因だ。セックスや親密な関係の重要性が認識されていないと、コバルスカは述べている。
「年を取れば性と無縁になるわけではない。実際には、予防医学やライフスタイル向上のおかげで、健康な生活やセックスをより長く楽しめるようになっている」
「多くの場合、経験や性の現実認識のおかげで、セックスライフがより充実する。ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』の(登場人物の1人)サマンサ・ジョーンズのように、年上層のセクシュアリティーに対する思い込みを覆すロールモデルが必要だ」
実際、複数の先行研究が示しているように、50歳以上の層は性的欲望の度合いや性行為の頻度がより高く、性的パートナーの数もより多い。
67~99歳のカップル42万790組を対象にしたアメリカの研究では、性感染症罹患は配偶者と死別した人の間でより目立った。だが、これは男性に限った現象だ。
「こうした研究結果は、特に男性高齢者の間でリスクの高い性的活動が当たり前になっていることを示している」と、コバルスカは指摘する。
「世界の60歳以上人口は2050年までに倍増する見込みで、性的活動を強化する薬が普及している。医療関係者はシニア世代の性的懸念について語り合い、高齢者向け医療に性の健康を組み込むことに積極的になるべきだ」
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