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精子バンクより、規制のないSNSやアプリでの「精子提供」を選ぶ女性たち...変質者やトラブルの危険も

ニューズウィーク日本版 / 2024年5月11日 12時33分

しかも、ネット上の取引では新鮮な精子(最長5日間受精能力を保つ)が手に入る。対して、精子バンクの冷凍精子は女性の体内で最長24時間しか持たず、排卵日にぴったり合わせて注入しなければならない。

利用者の多いマッチングサイトのKDRの場合、当局の規制がない代わりに利用規約に長々と注意事項が記載されている。例えば、ドナーのプロフィールに偽りがないかは、レシピエントが自己責任で判断しなければならない。ドナーとのやりとりについても同様だ。この規約にどのくらい法的拘束力があるかは分からないが、ルールを遵守しない人はサイトから締め出される。

KDRは違法ドラッグの使用や、性感染症と知りつつ取引をすることも禁止している。ドナーとレシピエントが正式な契約書を取り交わすことを推奨し、精子・卵子の取引で対価を要求することを禁じてもいる。人工授精よりもセックスのほうが妊娠確率が高いと「述べたり、ほのめかしたり」するのもアウトだ。

家族の多様性について議論を

フェイスブックで最も人気がある精子取引コミュニティーの1つは登録者がどんどん増え、22年6月には20年6月の3倍に達し、最終的に約2万4000人に上った。23年8月までに、さらに175%増加。精子提供を受けたい人が集まるにつれ、ドナーの参加も増えている。

フェイスブックのコミュニティーでは、ほかの登録者が見守るフォーラムでドナーとレシピエントがやりとりすることになるため、だまされる危険性が多少は減る。投稿内容は授精方法のアドバイスから妊娠報告までさまざま。レシピエントは写真や住所、ドナーに求める条件などを投稿し、ドナー側も自身の写真や成功実績などを披露している。

こうしたコミュニティーでは、ドナーとレシピエントが対面で会う前にビデオチャットをすることが推奨されている。コミュニティーの運営者の多くはドナーだが、レシピエントが運営に加わることもある。

運営者は変質者や荒らしを締め出すよう努力しているが、ネット上のコミュニティーの常でその手の人物の侵入を完全には防ぎ切れない。

法的規制に縛られない精子取引は私にとっては全く新しい領域だったが、妊娠に成功したレシピエントが自分の選択を誇りに思っていることははっきりと感じ取れた。彼女たちはこのシステムを利用し、生殖医療業界を迂回する近道を見つけ、なおかつ子供を産み、家族をつくることに成功したのだ。

これはより大きな人類の視点から、さらには家族の定義という視点から見て、非常に興味深い動きだろう。パートナーなしで子供を産む選択をする女性や、自分たちのやり方で家族をつくりたいと望む性的マイノリティーは増えつつある。精子提供サイトは、社会の主流から締め出された多くの人の希望をかなえることに貢献する。従来の生殖医療は、伝統的な男女の夫婦や、多額の費用を負担できる人を優先してきたからだ。

今こそ多様な形の家族について、固定観念にとらわれない議論を始めるべき時だ。アメリカでは性と生殖に関する権利が政治的・文化的な対立軸ともなっている。私は個人的な試みを通じて、ネット上で無料か安価の生殖補助サービスを探し、見知らぬ人の協力で家族づくりを始めることの心理的・法的・倫理的な影響を深掘りすることになった。

このシステムは新しい形の家族をつくろうとする人たちに大きな希望をもたらすのか。それとも考慮すべき厄介な問題を無数にもたらす、大きなリスクをはらんでいるのか。

答えがその両方だったら? どうすべきか知恵を出し合おう。

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