それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意欲が乏しい3つの原因
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月14日 15時30分
そもそもインドの2010年代は「失われた10年」で、経済成長は鈍化し、構造改革は進まず、雇用の伸びも鈍かった。この負の連鎖から脱却できたと言い切るのは、現状では難しい。確かに新型コロナのパンデミック期からは抜け出し、経済は回復してきた。しかし、その実態には偏りがある。潤っているのは労働者より資本家、中小企業より大企業、非公式経済で働く大多数の国民より一部の中間層・富裕層だ。
今のインドは、中国経済の減速によってもたらされた新たなチャンスを生かし切れていない。モディ政権は製造業振興策「メイク・イン・インディア」を掲げているが、今までのところインド国内での生産能力を拡大させた企業は多くない。むしろ逆で、外国直接投資(FDI)の流入額は減る傾向にある。
外資が及び腰になっているのだろうか。いや、政府が製造業向けにインフラを整備し、補助金を出し、保護主義的な政策も打ち出しているのに、国内企業の投資意欲は乏しい。
民間部門の設備投資は10年代に落ち込み、今もそのレベルから回復していない。この状況が好転する気配はない。実際、23年に発表された新規事業の投資額は名目ベースで前年の水準を下回っている。
結果、非熟練労働力の雇用を創出する国内製造業関連の輸出は低迷している。世界金融危機以降、アパレルなど主要分野におけるインドの世界市場シェアは低下する一方だ。モディ政権も中央銀行も事態を深刻に受け止めている。中央銀行は先頃、民間部門が「一丸となって行動し」、公的投資の負担を軽減するよう促すリポートを発表している。
投資を阻害する3つの理由
民間企業はなぜ、目の前のチャンスをつかもうとしないのか。リスクが高すぎると考えるからだ。
主たる懸念は次の3つだ。まず、政策立案の「ソフトウエア」が相変わらず弱い。この国では公平な競争が望めない。少数の財閥系企業や一部の外資系大企業ばかりが優遇されるので、全体的な投資意欲が損なわれている。優遇されてリスクが減った企業は前向きに投資するが、競合各社はリスクが高まったとみて投資を減らす。州政府の意向で事業環境がころころ変わるようでは、普通の企業はやっていけない。
第2に、輸出を増やす必要性を十分に認識しているはずの中央政府にも内向きの体質が残り、保護主義に走って輸入障壁を築きがちだ。しかも今は国民の多くが、インドには巨大な市場と優秀な国内企業があるから(政府の支援さえあれば)外国企業に頼る必要はないと信じている。無理もない。政治がナショナリズムに傾けば、経済も同じ方向になびくのは当然だろう。
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