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羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

ニューズウィーク日本版 / 2024年5月15日 18時36分

調査の結果、日本航空に責任はなく、ボーイング社の技術者による修理の欠陥が原因であることが判明したが、日本航空は2度とこのような悲劇を起こさないことを誓った。組織として強い当事者意識と責任感を抱き、集団で学ぶ機会とした。

事故の記憶がないまま入社する社員が多くなってきたことから、日本航空は、「安全運航の重要性を再確認し、この事故から学んだ教訓を胸に刻むため」に、2006年に安全啓発センターを開設した。展示室には、墜落機のコックピットのボイスレコーダー、乗客の所持品、破損し、焼け焦げた座席などの残骸、墜落直前に乗客が描いた大切な人へのメモなどが展示されている。

おそらく最も感動的なのは、図書室に置かれた日本航空の全社員が記入した安全誓約のメッセージカードだろう。社員たちは、このセンターで体験したことは強烈で、安全対策の不備がもたらす結果を深く示していると語っている。開設直後の3年間で7万4000人がセンターを訪れ、その40%は外部からの訪問者だった。当センターの資料は、全従業員の新入社員研修でも使われている。

日本航空の社員は全員、「安全憲章」を印刷したカードも携帯している。これは、安全のプロとしての責任の背後にある心と使命を視覚的に思い起こさせる効果がある。日本航空は、この事故から学んだ教訓を組織の根幹に組み込み、失われた人命の記憶と安全の重要性の大きさを常に前面に押し出している。同社はこうした工夫を、標準的な業務手順を守り、すべてを正しく行うことを中心とした非常に強固な企業文化を構築するための手段として活用している。

 

この組織的な取り組みの証として、日本航空の機内で流される安全ビデオは、他社のビデオよりもはるかに踏み込んだ内容となっている。緊急時には手荷物をすべて置いていくことの重要性を強調し、ルールに従わない場合の深刻な影響を説明している。

これとは対照的に、ほとんどの航空会社はこの点をかなり軽く取り上げている。最近の緊急避難事例でも多くの乗客が機内持ち込み手荷物を緊急脱出スライドに降ろし、避難の妨げになったことが確認されている。今年初めの羽田の事故の際、乗員乗客全員が無事に脱出できたのも、この点が重要な要素になったのかもしれない。

深い学びを業界全体に

リスクの高い業界における安全の重要性を考えると、今回の羽田の事故は、たとえ事故がなくても、安全文化に継続的に投資し、組織的な学びを根付かせることの重要性を強く思い起こさせる。結局のところ、過去の出来事から学ぶことが、将来のエラー発生を防ぐ最善の方法なのだ。

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