家族旅行で学校を休んでも欠席にならない「たびスタ」制度の導入を
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月16日 15時20分
舞田敏彦(教育社会学者)
<あまり知られていないが、公立学校の休みや始業時間には各自治体がそれなりの裁量権を持っている>
大分県の別府市が「たびスタ」の制度を実施している。家族旅行で学校を休む場合、欠席とはみなさない。スタとはスタディ(学習)のことで、旅の教育効果を期待した名称となっている。
家族旅行には「脳の発達、コミュニケーション能力が身に付く、世界観が広がる、親子の絆が深まる、好奇心や学習意欲が向上する」といった効果があるとのことだが(同市のリーフレット)、確かにその通りだ。
温泉街を擁する別府市では、宿泊業や飲食サービス業に従事する保護者の割合が高く、連休や学校の長期休業期間に働く親が少なくない。よって平日に家族旅行をしたい家庭もあるだろうと、「たびスタ」休暇が始まったわけだ。
こうした制度への需要は、休日に仕事をしている保護者の割合を見ることでも分かる。子がいる父親のうち、仕事をしたという人のパーセンテージを曜日ごとに示すと<表1>のようになる。2021年10月に実施された公的調査の結果だ。
仕事をしている父親の割合は、平日で9割、土曜で4割、日曜では3割弱となっている。小学生の父親だと、日曜に働いているのは28%、中学生の父親だと31%だ。バイト学生ではない、子持ちの父親(多くが正社員)のデータだ。
ざっくり小中学生の3割が、日曜日に父親が働いているとみられる。最近の小中学生は920万人ほどなので、実数にすると276万人。平日にレジャーや旅行をしたいという家庭は、結構あるということだ。
別府市のように観光業が盛んな地域では、数値はもっと高いだろう。市町村別のデータはないが、都道府県別のデータはある。<表2>は、末子が小学生の父親のうち、日曜に仕事をした人の割合を県別に出したものだ。値が高い順に並べている。
全国値は27.7%だが、3割を超えるのは14県、4割超えは6県で、最も高い鳥取県では55.7%にもなっている。小学生の父親の半分以上が、日曜日に働いている。医療や介護といった産業に従事している人が多いこともあるだろう。
別府市がある大分県は5位、日光市がある栃木県も6位と順位が高い。数値が高い地域では、別府市の「たびスタ」のような制度への需要が大きいとみられる。市町村間のバラつきもあるはずだ。各市町村で調査を行い、学校の休業日をどうするかを判断することも必要になる。
公立学校の休業日を定めるのは、自治体の教育委員会だ(学校教育法施行令第29条)。小中学校の場合、市町村の教育委員会ということになる。学校の授業の終始時刻を決めるのは、各学校の校長だ(同法施行規則第60条)。
あまり知られていないが、各自治体や各学校はそれなりの裁量を持っている。学校の休みや始業時間が分散すれば、盆や正月の帰省ラッシュ、日々の通勤・通学ラッシュも緩和される。保護者の働き方の多様化にも対応でき、家庭での「旅育」の機会も増やせる。
全国一律である必要などない。各地域の実情に応じ、学校運営には多様性を持たせるべきだ。
<資料:総務省『社会生活基本調査』(2021年)>
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