バイデン政権の方針と防空能力不足でハルキウは第2のマリウポリに?
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月21日 12時50分
ジャック・デッチ(フォーリン・ポリシー誌記者)
<ロシアの攻勢でハルキウは危機に直面...バイデン政権の制限が問題視される理由>
2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したとき、ロシアと国境を接することで真っ先に標的になった地域の1つであるハルキウ(ハリコフ)州。ウクライナ軍の必死の抗戦でロシア軍を撤退させた象徴にもなった地域だが、ここへきてロシアが新たな攻撃を仕掛けている。
ロシア軍は5月10日、大規模な越境攻撃を開始。ウクライナ第2の都市である州都ハルキウの攻略を狙っているとの見方もある。ウクライナ軍が欧米諸国からの武器の到着を待つなか、ロシアの攻勢は増しているようだ。
14日には、ハルキウに近い前線の要衝ボウチャンスクからウクライナ軍が撤退。国家非常事態庁によると、既に住民8000人以上が避難した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が外国訪問をとりやめ、急きょハルキウを訪問して軍を激励するなど、ウクライナ側の危機感は強い。
軍備面でも兵力でも劣勢に立たされるなか、ウクライナ政府内ではいら立ちが強まっている。ロシアがハルキウ州で戦術的に重要な前進を遂げたのは、米バイデン政権がウクライナにロシア側への越境攻撃を事実上禁じているためだと考えているからだ。
ウクライナ軍にとって、ハルキウに攻撃を仕掛けてくるロシア軍の拠点は目と鼻の先にある。正確な位置も把握している。それなのに米政府は、アメリカから供給された武器をロシア領内の標的攻撃に使用することを認めないと、ウクライナ政府関係者は言う。
「簡単に仕留められるのに、許可がない」と、ゼレンスキーの側近で「国民の公僕」党幹部のダウィド・アラハミヤ議員はこぼす。ロシアは、「われわれにこの政治的な制約があることを知っている。だからロシア領内に攻撃の指揮系統を置いているのだ」
戦いたくても武器がない
米政府がこの制限を解除すれば、「ハルキウの現在の苦境は解消するだろう」と、アラハミヤは悔しさをにじませる。「ワシントンが(隣の)バージニア州から攻撃を受けているのに、バージニアとの対立がエスカレートするのは困るから反撃するなと言っているようなものだ」
ウクライナ訪問中のアントニー・ブリンケン米国務長官は15日、アメリカの武器を使用する方法に制約はないとドミトロ・クレバ外相に語ったが、ウクライナ政府関係者は米政府の方針に変更はないと主張する。
米国家安全保障会議(NSC)の関係者も、ウクライナがロシア領内を攻撃することは奨励しない、または許さないというアメリカの立場に変更はないと内々に語った。
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