クリーンなイメージが強み? ロシア国防トップに経済学者が抜擢された理由
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月22日 16時50分
「彼は常に奇妙な組み合わせを持ち合わせていた」と、20年前からベロウソフを知るシカゴ大学の経済学者コンスタンチン・ソーニンは言う。「イデオロギーは旧式だが、方法論は基本的に現代風だ」
クリーンなイメージが強み
ベロウソフは00年、ロシア初のマクロ経済シンクタンク「マクロ経済分析・短期予測センター」を設立した。06年以降は経済発展相などの政府要職を歴任し、プーチンからの信頼も厚いが、知名度が低く権力基盤を持たないため、プーチンを脅かす存在にはならなかった。「プーチンはいかなる形であれ、後継者と目される可能性のある人物を登用しないよう細心の注意を払っている」と、ソーニンは指摘する。
ロシアの政治エリートの間では大規模な汚職が蔓延しているが、ソーニンに言わせれば、ベロウソフは「モスクワ基準」では比較的クリーンだとみられている。この点は、腐敗まみれの国防省を批判してきた愛国的な軍事ブロガーに歓迎される要素だろう。
「大統領に信頼される人物が別の機関から(国防相に)任命されることで、腐敗で結び付いた省内の硬直化したシステムは崩壊するだろう」と、国家主義者のブロガー、ドミトリー・セレズネフは書いた。「この人事改造が軍事ブロックにおける経済部門の強化を目指したものであることは明白だ」
ベロウソフは昨年、大企業の超過利益への追加課税を提言し、プーチンの署名を経て8月に法制化された。これにより、ロシア経済が戦争で疲弊するなか、30億ドル規模の税収を得ることができた。
一方、10年以上にわたって国防相を務めてきた前任のショイグは在任中、民間軍事会社ワグネルを率いた故エフゲニー・プリゴジンから痛烈な批判を浴びていた。4月下旬には、ショイグの側近のティムール・イワノフ国防次官が収賄容疑で逮捕。この一件は、内閣改造を控えたショイグへの警告と見なされた。
ショイグが国家安全保障会議のトップに任命されたのは、彼のメンツを守りつつ、第一線から退かせたいというプーチンの願望の表れだとロシア人アナリストのタチアナ・スタノバヤは指摘する。「ショイグが友人だからではなく、プーチン自身にとってそのほうが安全だからだ」
スタノバヤの見立てでは、この組織は「適切なポジションはないが、放り出すわけにもいかない」政界の元重鎮を送り込む先になっているという。ドミトリー・メドベージェフ前大統領も20年から同会議の副議長を務めている。
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