EVと太陽電池に「過剰生産能力」はあるのか?
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月29日 10時14分
例えばタイの自動車市場では、日本車が長らく9割のシェアを維持していたが、2023年は78%にシェアを落とした。BYDや長城汽車(GWM)などの中国勢が台頭し、シェアを11%に伸ばしたからだ。タイでは日本よりもEVシフトが急ピッチで進んでおり、2023年の乗用車の新車販売のうち18%がEVで、その8割が中国ブランド車だった(『経済参考報』2024年3月22日)。
■日本の自動車産業が全体として不要になる?
日本以外の主要な自動車市場ではEVシフトが急速に進みつつある。EVシフトへの対応が遅れている日本勢は世界的にもマージナルな存在へと落ちぶれていき、最後はEVの普及が進まない日本市場にしがみつくしかなくなる、という最悪のシナリオまで見えてきた。
2018年の末であったか、NHKの番組のなかで著名な自動車産業アナリストが「日本は世界のEVシフトを遅らせるべきだ」と語っていた。その趣旨は、日本の自動車産業はガソリンエンジン車やハイブリッド車で世界的に競争力が強いので、日本の産業と市場の影響力を使ってEVシフトを食い止めれば日本の産業に有利になる、という意味だった。これを聞いていささか日本の影響力を買いかぶりすぎではないだろうか、日本がEVシフトの足を引っ張ろうとしても世界でEVシフトが進み、日本が世界から取り残される懸念はないのだろうか、と首をかしげざるを得なかった。現実はまさにその懸念の通りになろうとしている。このままでは日本の自動車産業が全体として不要なものになってしまう。
■太陽電池は
太陽電池も差別化商品である。その機能においては発電という単一の機能しかないものの、光を電気に変換する技術がいろいろあり、その間での競争が繰り広げられてきた。これまでのところ結晶シリコン型が高い変換効率と低い生産コストを両立できる技術として有力であるが、変換効率はそれより劣るものの生産コストがより安いカドミウムテルル薄膜(はくまく)型にも一定の競争力がある。さらに桐蔭横浜大学の宮坂力(つとむ)教授の研究室で発明されたペロブスカイト太陽電池は、製造法が簡単で材料が安いにもかかわらず結晶シリコン型に匹敵する高い変換効率を実現できる技術として注目されている。現状では耐久年数に課題を残しているようだが、近い将来に有力な技術になるであろう。
様々な太陽電池技術の間で競争が繰り広げられるなかで生産能力過剰に陥るメーカーも出てくるだろう。5月14日にシャープが堺市の工場で作っていたテレビ用液晶パネルの生産をやめることが発表されたが、堺工場はもともと液晶パネルと太陽電池の両方を生産する工場として建てられた。ところが、シャープが選択した薄膜シリコン型太陽電池は変換効率が低いわりに生産コストは低くなかったため、競争力がなく、結局生産をやめた経緯がある。こうした技術間の競争のなかで太陽光発電の競争力が高まり、火力発電や原子力発電よりも有利な発電手段となっていくであろう。そうなれば太陽光発電が経済的な選択として生き残り、火力発電所や原子力発電所、そしてそれらの設備を作る産業が余剰になっていくだろう。2050年までに排出実質ゼロを公約した先進国はそうした転換を進める義務を自らに課したはずである。それなのに中国の太陽電池産業が過剰だと非難し、その発展を妨げるために関税を課すことに道理があるであろうか。
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