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戦争を経験した人の2割以上が「心の病」に...求められるウクライナ戦争避難民の心の傷を癒やすケア

ニューズウィーク日本版 / 2024年6月5日 9時24分

ラハドの研修プログラムでは、全くの初心者には最低限の対応ガイドブックを渡す。地域の活動家や学校の先生には、彼らのスキルを上げるためのトレーニングを施す。

それは理論と実践を組み合わせたもので、個々の被災者の特性に合わせてトラウマに対処する最適な方法を選び、誰もが持っている自己回復力を引き出そうとする。大事なのは、不安やトラウマの症状を軽減しつつ、自分の人生をコントロールする感覚を取り戻させることだ。

ラハドによれば、従来のPTSD治療は一対一で行われてきたが、彼のプログラムでは一度に複数の人々を対象にし、少しでも彼らのトラウマを緩和することを目指す。

例えば「プレイバック・シアター」と呼ばれる手法がある。必要に応じてプロの役者にも参加してもらい、被災者の体験を再現しつつ、被災者の意見を採り入れてストーリーを構成していく。

そうやって被災者が自分の体験を整理できるようにするのだが、1人ではできないから多くの人の協力が必要とされる。

ラハドはまた、より多くの人を救うためにオンライン治療も計画している。対面での治療には劣るが、何もしないよりはいいと思うからだ。

そこで留意しなければならないのは、治療への反応は成人と子供では異なるという点だ。一般に、子供は大人よりもフラッシュバックに強いとラハドは言う。大人は「なかなか自分のトラウマを再現したがらないが、子供は平気だ」。

そういう場面を、ズビルジンスカは何度も見てきた。「戦争ごっこ」をすることで立ち直れる子が少なからずいる。でも「ごっこ」が暴力的になったら、それは「トラウマが残っている証拠」だと彼女は言う。

心の傷からは逃げられない

現在、ラハドのプログラムにはポーランドとウクライナにそれぞれ45人前後のトレーナーがいる。中には、ウクライナとは無縁だけれど自らの戦争体験ゆえに「つながり」を感じて参加した人もいる。

例えば、かつてアフガニスタンの首都カブールで国連職員として働いていたカレダ・ナシール。彼女は20世紀後半に内戦の続くアフガニスタンで育った。今は家族とポーランドで暮らすが、戦争の記憶が自分や家族に与えた心の傷は今も消えない。

「戦争の中で生まれた私は」とナシールは本誌に語った。「平和がどんなものか、全く知らなかった」

そんな彼女がラハドのプログラムに参加したのは、他人を助けることが自分自身のトラウマを克服するのに役立つと気付いたからだ。

ウクライナについて語るとき、「心的外傷後ストレス障害」という表現は必ずしも適切ではない。戦争は今も続いており心的外傷は(「後」ではなく)現在形の問題だからだ。

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