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アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品としての信念」(luxury beliefs)とは

ニューズウィーク日本版 / 2024年6月4日 16時30分

その彼が言い出した「贅沢品としての信念」とは、彼によれば

「上流階級はそれを主張することでほとんどコストを負うことなくステータスを得られるが、下層階級はそれによってしばしば犠牲を強いられる、そうした考えや意見」

だという。

そもそも2019年の論考で言及していたが、ヘンダーソンが下敷きにしているのは経済学者ソースティン・ヴェブレンの「有閑階級の理論」である。ヴェブレンは 有閑階級、すなわち上流階級の消費とは、衣装も娯楽も高等教育も、ようは自分がいかに豊かかを誇示するための他者への見せびらかし手段に過ぎないと喝破した。いわゆる顕示的消費である。

それと同じように、自分がエリートであるということを見せびらかすための信念があり、 しかしそれがもたらす被害は主に貧乏人が被る、というのがヘンダーソンの主張だ。なので、luxury beliefsは「贅沢信仰」ではなく、「贅沢品としての信念」と訳してみた。ラグジュアリーとしての大義名分、くらいのほうが雰囲気が出るかもしれない。

ラグジュアリーと言えば、最近では日本でもちょっとしたブランドものを持っているくらいでは大きな顔はできないし、むしろ下品だとみなされる。モノでは自分の豊かさを誇示するのが難しくなっているのである。そこで、信念や政治的主張で差を付けようということになるわけだが、ヘンダーソンが挙げている「贅沢品としての信念」の具体例としては、

・警察は廃止すべきである(ディファンド・ザ・ポリス)。
・国境を開放し移民を入れるべきである。
・宗教は有害である。
・離婚やポリアモリーは個人の自由で問題ない。
・白人は白人であることで、非白人にはない特権を享受している。
・トランスジェンダーは保護されるべきである。
・薬物は合法化されるべきである。
・人生における成功は、努力よりも偶然によるところが大きい。

  

といったものが挙げられる。ようするに最近の米国左派で流行っている、プログレッシブな思想だ。

「贅沢品」をありがたがる上流階級

ヘンダーソンによれば、この種の「贅沢品」をありがたがることで上流階級は、金持ちの世界で尊敬や社会的地位を得られる。しかし、こうした信念が実際に実行に移されたとして、それが引き起こすネガティヴな帰結は、上流階級には影響しない。悪影響は主に下層階級が負うのである。

例えば警察の廃止で一番苦しむのは警備員付き豪邸に暮らす上流階級ではなく、ギャングに牛耳られた犯罪多発地域で暮らさざるを得ない貧困層であろう。移民の導入も、自身が高学歴の上流階級は安い労働力が使えて便利だろうが、実際に非熟練労働者として移民と仕事の奪い合いをするのは貧乏人である。トランスジェンダーの問題も、影響を受けるのが生物学的女性であるという点で似た構図だ。

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