「本のない家庭」で育った、ポール・オースター...ジャンルを超越し、人間を見つめた「文学の天才」の人生とは?
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月7日 14時50分
一方で自伝的な作品では、悲しみや父親であることや年月の経過について、胸を打つ考察をしている。82年に刊行したオースター名義のデビュー小説『孤独の発明』、2012年と13年に発表した回想録『冬の日誌』と『内面からの報告書』(以上3作は邦訳・新潮社)がそうだ。
文学作品では珍しく、2人称で書かれた回想録のぎこちない視点は、違和感なく読むという体験を巧妙に拒絶する。これも「居心地悪く」生きる方法を説くオースター流の教えの実例だ。
鮮やかに表現された身ぶり、ウイットや知性、実存的不安を特徴とする独特の語り口は見事かつ普遍的に心に響き、読者をとりこにする。その魅力はポピュラー文化に浸透し、新たな世代の作家やアーティストを刺激し続けている。
素晴らしいグラフィックノベル版が登場した「ニューヨーク三部作」は、スウェーデン人作家イア・ゲンベリの小説『ディテールズ』でも触れられている。
今年の英ブッカー国際賞最終候補作に選ばれたこの小説は、オースター作品の読書体験を完璧に表現している。
「読むことと書くことの両方で、オースターは私の羅針盤になった。彼のことを忘れた後も......。ある種の本は、題名や詳細が記憶から消え去った後もずっと骨にとどまる」
『ニューヨーク三部作』は次世代にも大きな影響 FABER & FABER
言語の無限の可能性
オースターの小説『4321』がブッカー賞候補になったのは17年。それまでにも『幻影の書』や『インヴィジブル』『サンセット・パーク』(以上3作は邦訳・新潮社)など、優れたベストセラー小説を世に送り出していた。書き終えるのに3年以上をかけた『4321』は、7年ぶりに発表した作品だった。
オースターの晩年は悲劇的だった。孫を亡くし、44歳だった息子のダニエルも失った。
新型コロナのパンデミック中は、ブルックリンの自宅に籠もったが、執筆はやめなかった。東欧を旅した体験をつづる芸術的なエッセーでは、ウクライナの民間伝承「スタニスラウの狼」について探り、コロナウイルスを寓意的に語った。
23年3月、オースターが肺癌であることを、妻のシリ・ハストベットが発表した。最後の小説となった『バウムガートナー』(23年)を執筆中の出来事だった。
愛や老い、喪失を優しく見据える同書では、71歳の主人公が、亡くなったばかりの妻アンナ・ブルーム(87年刊行の小説『最後の物たちの国で』〔邦訳・白水社〕の語り手だった女性だ)の死と向き合うさまを描いている。
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