再発防止を目指す「画期的な」個別化がんワクチン、イギリスで臨床試験開始
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月10日 12時30分
「こうしたワクチンは、がん細胞を認識して破壊するよう、患者の免疫を教育する。ワクチンは個々の患者のがん細胞が発現する分子に合わせて調整される(それが『パーソナライズ』と呼ばれる理由)。この設計によって治療効率が高まるだろう」。英オープン大学のがん薬理学教授、フランチェスコ・クレアは本誌にそう語った。
がんの再発を防ぐためには、この治療法を手術、化学療法、放射線療法と併用することが望ましい。他の治療法に比べると、副作用は少ない可能性がある。
NHSのがん担当国家臨床ディレクター、ピーター・ジョンソンは、「手術が成功したとしても、体内に少数のがん細胞が残っていて、がんが再発することがある。だがそのような残った細胞を狙い撃ちにするワクチンを使用すれば、それを食い止められるかもしれない」とNHSの声明で指摘した。
臨床試験ワクチンを最初に接種されたNHSの患者、エリオット・プフェブは55歳の男性で、過去に大腸がんの腫瘍と腸の一部を切除する手術を受け、化学療法も受けていた。
プフェブは「この臨床試験への参加は、講師としての私の職業にも、地域社会中心の人間としてもふさわしい。ほかの人たちの人生に前向きな影響を与え、そうした人たちが潜在能力を発揮する手助けをしたい」とのコメントを発表。「この臨床試験が成功すれば、数百万とは言わないまでも、数千人を助けられるかもしれない。そうすれば彼らが希望を持つことができ、私のような思いをせずに済む。これがほかの人たちの助けになることを願っている」とした。
臨床試験の完了は2027年になる予定で、誰もがこの治療を受けられるようになるまでにはまだ何年もかかる。ビオンテックは6月1日、米シカゴで開催のアメリカ臨床腫瘍学会年次会合で、今回の臨床試験に関する予備データを公表している。
「こうしたがんワクチンの開発には確かな科学の裏付けがあり、mRNAを届ける仕組みは新型コロナウイルスのパンデミックで有効性が実証されている。従って私は全般的に楽観視している」とクレアは言う。「ただし、がんは複雑で、理解するのが難しい疾患だ。がんの種類によってはワクチンだけで非常によく効くものもあれば、別の治療法との組み合わせが必要なものもあるかもしれない」
「残念ながら、そうしたワクチンが効かないがんもあるかもしれない。そうした理由から我々は、がんに対する多面的なアプローチを開発し、できる限り治療手段を広げる必要がある」(クレア)
(翻訳:鈴木聖子)
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