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ジブリの魔法はロンドンでも健在、舞台版『千と千尋の神隠し』に絶賛の嵐

ニューズウィーク日本版 / 2024年6月12日 15時36分

忘れ難いシーンが2つある。まずは、オクサレ様(腐れ神)が油屋を訪れる場面だ。ヘドロのようなその姿はちぎった茶色い布で表現され、居合わせた全員が忌み嫌うのだが、千尋はその醜悪な外見に隠れた真の姿を見抜く。

最初は逃げていた精霊たちも、ついには団結してオクサレ様を洗ってやる。透明プラスチックなどで水の浄化力を表現する演出がいい。

ヘドロやゴミを取り除いてもらったオクサレ様は本来の姿(竜=川の精)に戻り、凧のように観客席へ向かって飛んでいく。人間による環境破壊の罪深さと、その責任を考えさせられる場面だ。

もう1つは、油屋で千尋に付きまとう孤独なカオナシの運命だ。黒い衣をまとい無表情な仮面を着けた姿のカオナシは、その不気味にゆがんだ足取りで深い孤独と実存的な虚無を表現している。

その空虚感を満たすためにカエルの精霊を食べてしまったカオナシは、さらに薬湯の札や砂金を餌に次々と客を食べ、体がどんどん膨れ上がる(その様子は黒衣をかぶって身もだえする役者たちによって表現される)。際限のない消費に溺れて自分を見失いがちな現代人への警鐘だ。

PHOTOGRAPH BY JOHAN PERSSON

カオナシは千尋にも砂金を差し出すが、千尋は受け取ろうとしない。これにショックを受けてカオナシはわれに返るのだが、その姿には私たちの飽くなき欲望が鏡のように映し出されている。千尋のような存在に、果たして私たちも出会えるだろうか。

もちろん、本作の核には千尋の成長と、それに伴う変化の物語がある。千尋は甘やかされた少女から勇気ある若い女性へと変身する。欲望の渦巻く世界に迷い込んでも、道徳心は揺るがない。

千尋には思いやりの心と正義感がある。だから自分を見失わない。人間性よりも物質的な豊かさを優先しがちな今の世界にあって、彼女は得難い希望の星だ。

私たちの人生は変化の連続であり、変化は時に耐え難くもある。それでも変化を恐れてはならず、決して自分を見失ってはいけない。そのことの大切さに、『千と千尋』は気付かせてくれる。

PHOTOGRAPH BY JOHAN PERSSON

環境破壊が進み、多様なアイデンティティーが錯綜する世界にあっても、生身の人間が演じる『千と千尋』を見れば私たちは気付く。物語には人を、そして世界を変える力があるのだと。

劇場を出た私の心は晴れていた。スタジオジブリの魔法は西洋の舞台でも絶妙に効いて、見事な希望の火花がはじけた。そう、どんな逆境にあっても、共感があって仲間がいて、自然に対する畏敬の念があれば、明るい未来への道は開けるのだ。

Yuan Pan, Lecturer in Environmental Management & Sustainability, University of Reading

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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